自動自家清浄ホーム

@Jupes

第1話

C. ジェイ氏の次なる発明は、自動自家清浄ホームである。


つまりまったく掃除をしなくとも、家が勝手に定期的に掃除をしてくれるという、

怠け者の人間にとっては、まさに天国のような家なのである。


すべての部屋の壁の上部の天井に接しているコーナーにあたるところすべて、そして、下部の壁の床に接しているコーナーすべてに小さな丸い穴が開いているのが、その特徴である。その穴はだいたい半径3センチ程度である。


モダンなデザインが好きな人にとっては、一見すると、それは部屋の壁のデザインと見えるようなおしゃれなものであり、違和感として映らない。


ひと昔前の人にとっては、もしかすると床の近くの穴はネズミの穴のように見えるかも知れない。それらの人にとっては天井近くの穴も、鳥があけた巣のように見えるかも知れない。


しかし、それらと決定的に違うのは、その穴は細い金属性の網で粗く覆われていることである。


その金属製の網は、安全装置としての役割がある。その網によって部屋に置かれている貴重なものが吸い込まれないようになっていることと、子供やペットが吸い込まれていかないように防御してあるのだ。


地下には、大型掃除機の中心部分が置かれている。そこから無数の細長いダクトが、壁の中を通り、各穴に通じている。


その大型掃除機は24時間休まず、しかし、住人の快適さを失わせないように、ひっそりと静かに稼働している。


自動的に各部屋から吸い取ったホコリやごみは、地下に集中的に集められ、その後、専用のごみ箱に凝縮して収められていく。


ここに住む人は、もういっさい掃除機をかける必要はなくなった。また空気清浄機も必要がない。


住人は、時々、気まぐれにはたきをもって、おおまかに部屋のものをはたけば良いのである。


そうすれば、ホコリが宙に舞い、天井近くの穴と床近くの穴の吸い込み口から吸い込まれていくのである。


時に、天井からミスト状の細かい水滴が降ってきて、それが部屋のホコリを包み込み、その水滴もまた吸い込み口で吸い込まれていくために、かつてのように雑巾がけもいらず、モップでの床掃除もいらなくなった。


疲れて家に帰ってきて、また疲れて汚れる掃除などする必要がなくなった。また家の中に用途に応じて購入していた、ごちゃごちゃとした掃除道具など、もう買う必要がないのである。


家事の時間短縮、最高に清潔な家での時間を住人は過ごせるようになったのである。


その余った時間を住人はアカデミックで優雅な趣味の時間に移行することが可能となった。


人類は、機能する家というようやく最高に快適かつ、シンプルな生活空間を手に入れることに成功したのだ。


しかし、その反面、最高に便利なものが現われた代償として、人間の脳は劣っていくのだ。


家は進化し、人間は退化していくのである。


まさにきれいな反比例状態が現われている。


C. ジェイ氏は、ひそかにつぶやく。「これこそ地球の進化と退化の現象だ」



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