第7話

 想定外の相合傘で帰った日から1週間が経った。あれからも毎日、すず先輩と一緒に下校している。この1週間で彼女について色々なことを知ることができた。


 まず、2つ下の弟くんがいること。俺には3つ上の姉しかいないので年下の兄弟がいることはとても羨ましく思えた。

 俺の姉、さえねぇは現在、大学の2回生。気がつけばリビングのソファの上でダラダラしている。それに、弟の俺をよくパシリに使う。それなのに高校から付き合っている彼氏がいるらしい。この前ふたりが一緒に歩いているのを遠目から見たが、彼氏はとてもイケメンだった。なんでこんな姉と付き合っているのか不思議に思うくらいだった。

 姉とは全くと言っていいほど共通の趣味がないので、もし弟がいれば一緒にゲームをしたり漫画の貸し借りをして趣味を共有できるんだとうなあ、と考えたりする。


 それに、先輩は動物を見ることが好きらしい。親御さんが共働きで、誰も家にいないときにかまってあげられないのはかわいそう、という理由で動物は飼わないことにしているらしい。だから動物を見たいときは動画投稿サイトで「◯◯◯(動物の種類) かわいい」と検索してかわいい動物たちに癒されているらしい。俺には検索している先輩の方が、かわいく思えて仕方がない。


 他にも電車に乗ることが好きで遠出をするときは電車で行ったり、勉強の休憩時間に読書をしていたり、今期のドラマの主演女優が大好きで毎週欠かさず見ていたりしていることを知った。


 彼女の好きなことを知るたびに彼女に近づいている気がした。


***


 すず先輩や俺が通っている高校は土曜日までも授業がある。そのおかげで丸一日休みの日が一週間のうちで日曜日しかなく、日曜日は決まって課題に追われてほとんど遊びに行くことができない。

 しかし、来週は土曜日の授業が休みらしい。ちゃんと話を聞いていなかったので理由はよくわからないが、とりあえず先生に感謝しようと思う。


 そういえば、先輩は動物が好きだと言っていた。久々の土曜日の休みに動物園に行こうと誘ってみようかな。動物園は電車で大体30分で着くからそんなに遠い距離ではないし、先輩は電車に乗るのが好きとも言っていたから丁度良さそうだ。今日、一緒に帰るときに誘ってみよう。先輩は喜んでくれるかな。


***


 「お疲れ様です!」


 先輩と一緒に帰り始めてから1週間と1日が経った。先輩と二人きりで話すのにもかなり慣れてきた気がする。でも、やはり今でも先輩と一緒に話すとなるとドキドキして幸せで、「ああ、これが恋なんだな」なんて思ったりする。


 「お疲れ様、じゃあ帰ろうか」


 毎日先輩が見せてくれる笑顔、毎日見ているはずなのに何度見ても素敵だと感じる。こんな素敵な先輩の横で俺なんかが歩いていることがとても不思議だ。


 「すず先輩、来週の土曜日って学校休みですよね〜」

 「そうだね、土曜日に休めるのは久しぶりだね」

 「土曜日って何か予定入ってますか?もし予定がなかったら、、、一緒に動物園に行きませんか?」

 「え!いいの!?私、動物園大好きなんだ〜!高校に入ってから忙しいのと一緒に行ってくれる人がいなくて全然行けてなかったの」

 「電車で30分ぐらいのところにある『モリヤマアニマルパーク』ってところとかどうですか?」

 「そこ、小さい頃からよく行ってた動物園だ!あきくんと一緒に行けるのか〜嬉しいな」


 また先輩はそうやって俺を喜ばせる。「俺と一緒に行けるのが嬉しい」なんて言われると勘違いしてしまいそうだ。


 「何時に出発がいいかな?あそこは9時から開園だから、8時30分くらいに大岩駅に集合で大丈夫かな?」

 「俺もそれくらいの時間が丁度いいと思います。お昼はどうます?レストランで食べると高いし、お弁当は持って行った方がいいですよね?」

 「うん、持っていった方がいいかも。あ、そうだ、下手くそなのでもよかったらお弁当作ってこようか?いつも自分で作ってるからついでになっちゃうけど」


 先輩の作ったご飯を食べられるなんて恋人でもないのに許されるのだろうか。先輩の手作りが食べられるなんて想像しただけで倒れそうなくらい幸せだ。

 そして、先輩はいつも自分でお弁当を詰めているのか。勉強も生徒会もあって忙しいだろうに、偉いなあ。


 「いいんですか…!?俺が手作りなんていただいても…!」

 「いやいや、そんなに期待しないでね!得意なわけじゃないから!」

 「先輩のお弁当楽しみにしてます」

 「頑張ってみるけど、あんまり期待しすぎないでね…!」



 すず先輩と遊びに行く約束をした。恋人としてのデートではないけれど、好きな人と遊びに行けるのはとても楽しみだ。


 欲張りかもしれないけれど、いつかは恋人としてデートしてみたいな、なんて思った。

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