ベルム・エクス・デウス~少年たちの闘い~
零識松
第1話 敗退
15秒。
それが、俺に残された最後の時間だった。
(どうする……)
思案の材料を得ようと、手に持っているタブレットに落としていた目をすこし上げ、バトルフィールドへ視線を向ける。
障害物や地形の起伏が全く無く真っ白いノーマルフィールドには、全長約15㎝の間接可動式人形――テオスが2体、相対している。
俺に背中を向けているテオスは、まさに満身創痍な状態だった。
唯一の武器であるバスタードソードは刃こぼれでボロボロ。さらに元々軽装気味な防具もほとんどが砕かれ、女の子だというのに半裸に近い有様だ。特徴的な長い銀色のポニーテールも纏めていたアクセサリーが無くなり、ウェーブがかったストレートになっている。
こいつが俺のテオス――ギンガだ。
対して、俺を正面から捉えているテオスには傷ひとつ付いていない。全身を鎧で覆っており、その手に持つ大柄なハルバードも相まってまるで中世の騎士のようだ。鎧と斧槍の金色をフィールドのバックライトが照らすので、テオス自体が光に包まれているように見える。
「くそっ……!」
彼我の圧倒的な戦力差とダメージ量の差に、思わず苛立ちが口をついて出た。
「この町ナンバーワンがこの程度か……この町にはボクのゾディアックを倒せるようなテオス使いはいないようだね」
嫌味ったらしく吐かれた言葉に、さらに顔を上げて、対戦相手を睨みつける。
線の細い顔とこれまた細い目、さらに四角いメガネというなよっとした外見にブランド物のジャケットをラフに着こなした少年は、俺の苛立ちを煽るようにオーバーに肩をすくめた。
「そう怖い顔をしなくたっていいだろう?ほら、ぐずぐずしてるとアクション入力時間終了になるよ?」
ギリッと歯を鳴らし、俺は再びタブレットへ視線を戻した。
タブレットには、残り時間と自分の操るテオスのステータス、そして取ることの出来るアクションの一覧が表示されている。
残り時間が2秒を切った。
「ええい!」
迷っているヒマはない。
俺は一覧の中から選んだアクションを3つ、下の空いているバーにスワイプさせ、OKをタップした。
『Time up!』
短いシステム音声がタブレットから流れるのと、俺がOKをタップするのはほぼ同時だった。
「何とか間に合ったみたいだね。さて、どんな手でくるのかな……?」
余裕の笑みを浮かべる対戦相手の少年――確か、伊集院 修(いじゅういん・おさむ)と自己紹介された――の言葉につられたわけでもないが、俺はフィールドに注視する。
アクションを選んだら、あとは出来る事はない。15秒間に行われるお互いのアクションの結果を見つめるだけだ。
『3rd round. Action start!』
筐体から聞こえるシステム音声と共に、テオスたちが動き始める。
最初の5秒。
俺のギンガは両手で握った剣を構えてゾディアックとの距離をつめる。一方のゾディアックはハルバードを軽く後ろに引いただけ。
中盤の5秒。
近づいたギンガが渾身の振り下ろし。しかし、ゾディアックの黄金の鎧によってダメージは入らず。対するゾディアックはギンガの攻撃を全く意に介さず、ハルバードの槍部分を突き出し、ギンガのがら空きになった腹に強烈な刺突を見舞う。
「くっ……」
前のバトルと同じ光景に、俺は唇を噛む。
完璧な形で一撃を決めたゾディアックの全身を、赤いオーラが包み込む。
「ふふっ……」
「また……同じかよっ!」
勝利を確信した相手と、赤い光を放つゾディアックを、俺は睨みつける事しかできない。
そして、最後の5秒。
ゾディアックの一撃によって体勢を崩されつつ、ギンガは破れかぶれに横薙ぎの斬撃を繰り出す。
ゾディアックの鎧とぶつかった刃が、重い音を立てる。
刃こぼれがひどい剣の攻撃は刃で「切る」というより金属の棒で「殴る」に近い。
「やった……か……?」
「それはどうかな……?」
ふふん、と余裕の表情を崩さない相手を一瞬だけ睨みつけ、再び盤上に視線を戻した俺は、思わず目を見開いた。
「効いてないのか……」
相手のテオスがまとう黄金の鎧は、破片ひとつ落としていなかった。
全くダメージを受けていないゾディアックは、身の丈よりも長いハルバードを頭上でぐるりと回転させる。赤いオーラを纏った斧槍が回転している様は、さながら天に太陽を描いているかのようだ。
そして――回転の勢いの乗った斬撃が、バランスを崩しているギンガへ振り下ろされた。
「ギンガッ!!」
吹き飛ばされて転がってきたギンガの姿に、気づいたら叫び声をあげていた。
思わずのばした手は、フィールドを覆うアクリル板に阻まれてしまう。
その間に、ギンガは塵ひとつ遺さずに消え
てしまった。
『HP of Ginga 0! Winner Zodiac!!』
システム音声が冷静な勝利の裁定を下す。
「『コネクト・ザンバー』……2回目もここまで見事に決まるなんてね。少しは考えたみたいだけど……ただ攻撃を重ねるだけで、勝てるわけないじゃないか……まぁ、これでこのホビーショップはボクたちの遊び場に決定したね。それじゃ、みんなを呼ぼう」
ポケットから出したスマホを操作し始める相手――オサムに、俺は目尻に溜まった涙を裾でぬぐって、残った気合いをかき集め、精一杯の声を上げる。
「ま、まだ……まだ終わってねえぞ!明日、同じ時間にもう一回勝負しろ!この遊び場を使えるかは、その時に決める!」
オサムはあきれたように言葉を返してきた。
「たった一日で、何ができるのさ?」
「おまえより、強くなってやる!」
言い捨てると、俺はタブレットを握り、カバンをひっ掴んでデュエルスペースを飛び出した。
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