理解力・千年・交渉

エリー.ファー

理解力・千年・交渉

 本を読み、それから捨ててしまう。

 頭の中に入ってしまうのだ。

 知識やらなんやらが。

 人によっては不憫だという人もいるらしい、人間らしい苦労もせずに一応、人間と言う枠組みに入ってしまっているなどと。

 それはもちろん、人によっては、ということになるのだが。

 分かりやすく、天才と言うことができるのかもしれない。しかし、そこからはみ出すこともできなければそのまま、こうして生きてきたのだ。天才という世間からはみ出した存在であるにも関わらず、天才という枠組みから外れることはできなかった。

 それは、つまり。

 天才という部類の中では凡人といことなのだ。

 本を読み、知識を得て、それを社会に活かし、貢献する。

 このようなことは誰しもがやっている。

 本当に、誰もがやっていることなのだ。

 こうなってしまえば、最早天才という枠組みにすら入っていない。

 どこにでもいる人間、ということである。

「それが、占いたいことなのかい。」

「占いたい、というか悩みです。」

 私は気が付くと占いの館の中にいた。

 かなり、当たると評判である。

 私はまず占いであるとかそのような非科学的、オカルトめいたものに興味を示すことはないのである。けれど、このようにして、ここに行きついたしまった、ということはそういうことなのだと思う。

 私は占いに助けを求めていた。

 自分の信じない部類からの手を待ったのだ。

 心が非常に疲れているのだと自覚する。

「私は、占いを余り信じない人間です。」

「そのような相が顔から出ていますから、そうなのでしょうな。」

「ですが、このようにして占いを信じてみたくなりました。」

「本当ですか。」

「はい、本当です。」

「では、今から占いを行いますが、貴方の今の不幸が貴方の両親が生きているせいだ、今すぐ殺しなさい、と言われれば殺すということでよろしいですね。」

 私は占い師を見つめた。

 占い師の瞳は青かった、いや、少しばかり黒くもあり、赤くもあった。カラーコンタクトを入れているのかもしれない。それとも、照明の光の加減でそのように見えるのか。不思議なものである。

 しかし。

 なんにせよ。

「はい。」

 覚悟を見せるほかない、思ってしまった。

「違う。」

「は。」

「違う。」

「あの、何がですか。」

「仮に占いの結果がそのようなものであったとしても、行動するかどうかを自分の意思で決められるものだけが、占いを楽しめるのです。お帰りください。」

「あの、ちょっと。」

「なりません。」

「でも、占いを心から信じようと思ったから。」

「そういう判断をする、ということは、貴方は占い以外のものをもう既に妄信している、ということです。これ以上、妄信するジャンルを増やす必要はありません。お帰りください。」

「そんな、助けてください。」

「占いは貴方を助けるものではありません。」

 私は途方に暮れた。

 占いにすがることができない、ということは今後の自分の立ち位置を見失った、ということである。

 しかし。

 考えても見れば、この占いの館に入る前には、特に占いをしていなくとも自分の意思で何かを決断していたように思う。

 もう。

 何を失ったのかさえ分からない。

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