Last phase-18

 ああ、何だろう。

 これは、私への罰なのだろうか。

 目の前で再現される、最悪の光景。

 かつてと違うことは、あいつが突っ込んだ相手が、殺人鬼などではなく銃を手にした愛国者だということ。

「なんだ、貴様は!」

 流石の岩國も彼の登場には驚いたらしく、驚愕の声を上げて嘉村を睨みつけている。

「鬼道さん、今のうちに!」

 嘉村が必死の叫びで、ようやく体を起こす。

 いまだに力が入りにくい体を無理矢理動かし、何とか立ち上がることはできた。

 体はまだ鈍く、進もうとすると足元が覚束ない。

「……ええい、放せ!」

 岩國が腕を振るって嘉村を振りほどく。

 反動で突き飛ばされるあいつに、岩國が銃口を向ける。

「何者か知らんが、この女を庇うなら、貴様も反逆者だ」

「……!? や、やめろ!」

 反射的に叫んだ。

 『眼』がその軌道を演算し、予測される最悪の結果をはじき出す。

 その最悪の結果が、私の顔から血の気を引かせる。

 瞬間、男の手から銃が消える。

 ガラスが割れる音と共に、銃が弾き飛ばされ、破壊されたのだ。

 その瞬間は、私の『眼』が捉えていた。

 外部から飛来した、一発のライフル弾。

 その正確な軌道はこの部屋の窓ガラスを突き破り、そのまま岩國の手にしたマグナムを破壊したのだ。

「……ぬぅ!?」

 不意打ちで己の武器を破壊された岩國は、自身の手を押さえる。

 厳つい顔つきに目付きが見開かれ、手に受けた衝撃から苦痛の表情を浮かべる。

「……」

 今だ。

 私はとっさに、折れた刃の破片を構える。

 ふらつく足を無理矢理奮い立たせ、刃から流れる血を気にも留めず、眼前の仇に向かって歩を進める。

「……! ダメだ、鬼道さん!」

 あいつの声が、聞こえる。

「……っ!?」

 途端に、頭痛が私を襲う。

 蘇る、あいつとの約束が、私の頭を駆け巡る。

 父の復讐と、あいつとの約束。

 この両者が私を苦しめる。

 嗚呼。

 どうすれば、いいんだ。

「……ふん、何だ、その顔は?」

 口を開いたのは、岩國だ。

「おまえの、父親の仇は、その程度か」

「……っ!」

 それが、トリガーだった。

 勢いよく、男に突っ込む。

 あいつの制止の声が聞こえた気もするが、もう止まらない。

 そして、刃は刺さった。

 だが、予想外だった。

 岩國と私の間に、突如割り込んだ影。

 それの着ていた、白いスーツが、赤く染まる。

 その姿には、見覚えがあった。

「……ダメだよ、佐久弥」

 聞きなれた声が、私の耳に弱弱しく聞こえる。

「……君が、こんなこと、しても、あの人は、喜ば、ないよ」

 そして、それの被っていたシルクハットが、ポトリと落ちる。

「……ねえ、佐久弥」

 嗚呼、なんてことだ。

 こんなはずじゃ、なかったのに。

「……もう、終わりにしよう」

 怒りもなさ気に、刺してしまった人物、『JSA』所長。桔梗院歌留多は、そう呟いた。

「――――――――――!」

 絶叫。

 私の感情の全てを吐き出すような悲鳴が、部屋に響いた。

 

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