Other phase 2-13
佐久弥へ文句という名の恫喝を行った後、ちひろは自身の席で暇をつぶしていた。
先程、佐久弥と会ってわかったが、どうも彼女の様子はおかしかった。
普段の佐久弥を知っているわけではないが、どこか雰囲気が違っていた。
いつも以上に、冷たい雰囲気。
まるで機械にでも話しかけている感覚さえ感じるほどだった。
そんな彼女の態度もあって、あんなに怒鳴ってしまったが、少なくとも佐久弥は嘉村に対して思うところがあったのかもしれない。
とはいえ、元気づけてやるつもりはなかった。
ちひろにとって佐久弥は、好敵手であり、恋敵でもある。
そんな相手を復活させてやるほど、彼女は優しくない。
甘さを持っていたら、極道も芸能界も生きていけないのだ。
思わず『二条』についてもぶちまけてしまったが、まあいいか。
深く考えずにちひろが過ごしていると、いじっていたスマホが震える。
「……げっ」
画面に表示されたのは、やはり会いたくないやつの名前だった。
ため息をついて、人気のなさそうな場所へ移動する。
「……もしもし」
『おや、相変わらず暗そうだな。アイドルがそんなことでは、ファンは満足しないぞ』
ちひろの気も知らずに飄々と言ってのける神藏鈴音。
予想通りの女が出てきたことに、ちひろはさらにがっかりしてしまう。
「……あたし、まだ学校なんだけど?」
『だろうね。だからこそ、周囲に人がいないだろう今のうちに電話させてもらったわけだ』
「?」
相手の意図が掴めず、困惑するちひろ。
『……準備が整った。今日、『八条会』には地上から消えてもらう』
「……!?」
突如、声のトーンが変わる。
愉悦を隠そうともしない彼女の普段とは異なる雰囲気は、電話越しの相手を警戒させるには十分だった。
「……何? 『八条会』と戦争でもしようっての?」
『ああ。君の功績もあって、我々『二条』が、君らを潰すには十分な証拠が揃ったよ』
「証拠?」
『ああ。君らとあの『ヒーロー』の間柄の証拠だよ』
「――!?」
ちひろには、身に覚えがなかった。
仁助が黙っていた可能性も考えたが、あの兄が自分に黙ってあのヒーローと関係があったとは思えない。
となると、考えられるのは、1つだけ。
「……でっちあげるつもり?」
『さあね。たとえ虚偽であっても、誰が言うかで真実に変わる。それが世の中さ。君があの夜、うちの組員に目撃されたおかげで、こんな大事にまで発展させることができたよ。ありがとう』
「……っ」
ちひろは思わず歯噛みする。
自分のうかつな行為のせいで、組が、何より自分の兄を、とんでもないことに巻き込んでしまった。
過去の自分を撃ち殺したくなる。
「……何で?」
『? 何で、とは?』
「何で、うちを潰そうとしているか、聞いてるんだコラ!」
精一杯の怒号を吐き出す。
スマホを見切り潰さんとするほどの力が籠る。
『……』
答えが、返ってこない。
無言の圧力はある種の不安に変わり、彼女を襲う。
しばらくして、電話の主は答えを返す。
『……戦争』
「?」
『私は、いや、我々は、戦争がしたい。ただの金勘定はもう終わりだ。そんなこと、ヤクザ者である必要がまるでない。徹底的で圧倒的な暴力を示してこそ、我々の存在意義がある。もはや、かつては武闘派と怖れられたかつての『八条会』などない。その歴史を、これで幕を下ろしてやろう』
狂ったような発言をして、通話は切れた。
「……くそったれ」
ちひろは毒づいた。
鈴音の真意と、過去の愚かな自分。
この二つに憤りさえ感じる。
このままでは、間違いなく全面戦争になるだろう。
放ってはおけない。
何より、これは自分が撒いた種なのだ。落とし前は、つけなければならない。
極道者として、何より、『八条会』若頭、上条仁助の妹として。
「……よし!」
覚悟を決めると、彼女は早速行動を開始した。
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