Other phase 2-10
ちひろは新堂の運転する車で、病院へ急行した。
彼女は現在、気が気でない。
「とにかく早く、病院へ急行しろ! 急げ!」
運転する新堂に檄を飛ばし、足を急がせる。
彼女がここまで必死になるとは、彼にとっても驚くべきことだった。
彼が伝えたのは、あくまでも、彼女のただのクラスメイトに被害者が出た、ということだった。
つまり、ただのカタギに被害が出た、ということが言いたかったのだ。
それが、まさかここまで彼女を焦らせるとは予想だにしていなかった。
もしかしたら、被害にあったという嘉村とかいう男とはただならぬ関係だったのではないか、という考えさえ浮かんでしまう。
――――まあ、仁助の兄貴には黙っておこう。
その言葉を胸に刻み、彼は車のアクセルを踏み込んだ。
しばらくして病院に到着し、ちひろは弾かれたように車を飛び出した。
受付で新堂が病室の番号を聞き出し、目的の部屋へ走る。
制止する看護師の声さえ聞こえない程に急ぎ、病院内をひた走る。
そして、目的の病室につくと、思い切りスライドドアを開けた。
「……嘉村君……!」
「ええ、上条さん!? どうしてここに!?」
そこには、頭と片目に包帯を巻いた嘉村真一が、ベッドで漫画雑誌を読んでいた。
「……え?」
予想外の光景に、ちひろは思わずまぬけな声を漏らした。
彼女は彼が意識不明と聞いていた。
だが、現実にこうして会話さえできているほどの状態なのだ。
なんだか、心配した自分がバカみたい。
そんな言葉が、脳裏に浮かんだ。
「ああ、お嬢、やっと見つけましたよ!」
そんな彼女の背後から、息を切らせてやって来たのは新堂だ。
「先程受付の担当に聞いてきたんですが、意識失ってたのは殴られたショックで意識なくなってただけで、外傷的に問題ないそうです。念のために数日入院した方がいいそうですが、検査的には大丈夫だろうとのことです。よかったですね、お嬢!」
笑顔でサムズアップする新堂。
ちひろはそんな彼に俯き気味に無言で近づいていく。
僅かに肩が震えているし、耳が真っ赤に染まっている。
――――あれ、泣きそうなのかな? 仕方ない、胸を貸そうか。
大人な感覚でいた彼は大きく腕を開く。
しかし、ちひろはいきなり彼のネクタイを引き寄せた。
「……!?」
不意の衝撃に驚く彼だが、
「……おい、新堂」
ドスのきいたちひろの声が、彼に響く。
器用に新堂だけに聞こえる声量で威圧したちひろは、新堂を引き摺って病室を一旦後にする。
扉が閉まった途端、
「てめえ、そういうことは早く言いやがれ!!! このドサンピンがあ!!!」
ちひろの怒りと恥ずかしさの入り混じった怒号が響いた。
この後、何とか生き残った新堂渚はこう述べている。
久しぶりに、死を覚悟した、と。
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