Other phase 2-9
事務所にやってきたちひろが見たのは、いつも以上に慌ただしい組員だった。
普段は幹部レベルの組員が金勘定や電話番にあくせくしており、その他の組員はその様子を見て学ぼうとしていたり、呼び出しがあればいつでも動けるようにスタンバイしていたりと、割と自由に活動している。
これは仁助が若頭に就任してからこの傾向が強くなり、他の組員からは「弛んでる」と言われても仕方ない状態が普段となっていた。
しかし、有事の際はこのように慌ただしくなる。
かつて中国マフィア含めた海外のマフィア組織と抗争状態に陥った際、これ以上に慌ただしかったことを、ちひろは覚えていた。
これらの状況から鑑みて、彼女は思った。
何かあった。
そして、これから何か起こる。
「新堂! いる!?」
ちひろが叫ぶと、即座に彼女に新堂が近寄り、一礼する。
「お嬢、お疲れ様です」
「何があった?」
少しばかりドスの入った声で、ちひろは問う。
「今、仁助の若頭の命令で、組員総出で『十傑衆』を招集してます」
「えっ、『十傑衆』を!?」
ちひろは予想以上の状況に驚きを隠せなかった。
『十傑衆』は、『八条会』の持つ最高戦力だ。
抗争の際には必ず彼らを招集し、敵勢力を撃滅する。
言うなれば、『八条会の最終兵器』である。
かつて、海外勢力のマフィアと抗争になったときは彼らが集結し、たった3日で数十名の敵幹部を殺害したメンバーだ。
元特殊部隊上がりや元殺し屋など、異色の経歴の強者揃いが集められるのだ。ただ事ではない。
「それと、若頭から『二条』の奴らと例のヒーローの関係を洗え、と」
「? あいつら、何か関係あるの?」
「わかりません。ただ、仁助の若頭からはそう指示が下ってます」
そう伝えると、新堂は他の組員から声がかかり、彼女の下を離れていった。
「……」
ちひろは考える。
鈴音は電話で彼女に言った。
『君の昨夜の行動のおかげで、『八条』を焚きつけることができた』
つまり、何故そうなったかはわからないが、この騒動の原因は自分にあるらしい。
また、それは『八条会』と『二条会』を巻き込んだものになりそうだ。
しかも『十傑衆』を呼び寄せるほどの、大きなものに。
そして、それはあの『ヒーロー事件』も絡んでくる。
「……う~ん」
ちひろは頭を抱える。
彼女の頭では、全てを処理しきるには、情報が多すぎる。
そんな時だった。
彼女のスマホに、電話がかかってきたのは。
画面に表示された名前は、先程まで話していた新堂だった。
「……もしもし」
『お嬢! 大変です!』
「?」
大慌ての新堂に、何事かわからずちひろに疑問符が浮かぶ。
そして、彼の次の言葉で、彼女の顔は凍り付いた。
『お嬢のクラスメイトの、えっと、嘉村、とか言いましたか? そいつが、ヒーローの野郎にぶん殴られて、意識不明だそうで!』
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