5th phase-10

「……え?」

 意味が分からなかった。

 死んだ? 古川が?

 私達は確かに、古川とヒーローを引き離した。

 ヒーローの位置と経過した時間から考えて、ヒーローが古川に追いつくなどありえない。しかも風間さんに追われていた状況なら猶更だろう。

 にもかかわらず、自宅で殺された?

 ますます、意味が分からない。

『と、とにかく! 一旦事務所戻ってくれる? 状況を整理したいからさ!』

「……了解、しました」

 慌てた様子の瀬見さんに返事をして、通信を切る。

 状況がはっきりしないが、一先ず事務所へ向かう。

「遅い! 遅いよサクたん! さっきから待ちくたびれてくるくる回ってたくらいだよ!」

 戻って早々、待っていたのは鬱陶しい所長の言葉だった。

「……すみません。遅くなりました」

 私も疲れていたため、所長の言葉はほぼ無視した。

 経験上、こうした方がこの男の場合はダメージが大きいことはわかっている。

「お疲れ、サクちゃん! でも、今度からは勝手なことはしないでね~! お姉さんとの約束だよ!」

 手を振りながらも私を注意する瀬見さん。

「……」

 自分のデスクで文庫本を読み進めている風間さん。

 そして、

「あら、お疲れ様、サクちゃん。揃ったことだし、コーヒーでも入れようかしらね」

 最初はいなかった紫苑さんが来ていた。

「紫苑さん、ありがとうございます」

「ええ。砂糖とミルクたっぷりね」

 そう言って準備してくれる彼ないし彼女は、まさに神にも見える。

「さあて、それじゃ、情報を整理しようかな。夜も遅いし」

 紫苑さんから飲み物を受け取った後、所長はホワイトボードに書き始めた。さっきまで無視された精神的ダメージからか、イジイジとしていた状態から立ち直っている。

 この男も、メンタルがタフになってきたのだろうか。

「さて、まずはサクたんが監視していたところから。ヒーローを確認して、これをサクたんが無断で迎撃。この時、古川は走って逃走。ここまではいい?」

 所長が情報を記載しながら整理していく。

 もう、私が悪かったから、無断を強調して言わなくてもいいだろうに。それともさっきの反撃か。

「ここからは、セミちゃんが集めてくれた監視カメラをつなぎ合わせた情報。カメラ上だと、古川は顔を強張らせて全速力で走っていた。そして、本人の自宅であるアパート付近の監視カメラを最後に、以降姿は見せてないみたいだ。しばらくして、彼の部屋の隣の住人からの通報で事件が発覚。今ある情報は、こんなところだね」

 一通りの情報を所長は書き終える。

 なるほど、古川が恐怖から逃走していたことがありありとわかる。

 でも、同時に疑問もある。

「……アパートには、カメラはなかったんですか?」

「なかったっぽい。築35年の安普請のアパートで、監視カメラをつけるお金もない場所っぽい。この近くって、古川みたいなチンピラ連中がよく集まってたこともあって、近隣の住民も近寄らないっぽいよ」

 ココアを口にしながら、瀬見さんが説明してくれる。

「うーん、でも、わからないわねぇ。この古川って奴の死因って何なの?」

「それがね、紫苑さん。まだ警察から連絡ないんだよね。こっちから問い合わせても田代警部補から連絡ないんだよね。今検証中なのかな」

 そう言って頭を抱える所長。

 警部補が連絡してこない以上、今はこれ以上の情報は出ないだろう。

「では、明日の放課後に私がまた行ってきます」

「頼める、サクたん? 明日はセミちゃんは講義だし、風間君はこういった情報収集は不得手だし、紫苑さんはお店の時間だから、サクたんぐらいしかいなくてね」

 さらりと言う所長だが、内心、私はドン引きしていた。

 メンバー全員のスケジュールを把握してるのか。プライベートも何もあったものじゃない。

「それじゃ、情報の共有は終わったし、今日はここまでにしようか。これ以上は、サクたんの成長に悪影響だよ」

 そういう彼は、まるで私を労わってくれているようだ。

 だが、

「……まあ、すでに手遅れええええええええええええええ!?」

 この男の視線がどこを向いたかがわかった瞬間、私の拳が彼の顔面を捉えた。

 毎回余計なのだ。

 このセクハラを訴える部署が、なんでこの組織にはないんだ。是非教えてくれ。

 すぐにでも手続きしてやるから。

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