5th phase-9

「……何のつもり、上条さん?」

 突如現れた殺気を纏った知り合いを睨みつける。

「も~、そんなに睨まないでよ!☆ 恐いよ~☆」

 どこか能天気ささえ感じる反応を返してくる上条さんだが、向こうも私を警戒しているのか、三尺刀の届く範囲に入らないほどの一定の距離を保っている。

「こんなところで、しかも発砲してきた人を警戒するなっていう方が無理でしょう?」

「まあね☆ その程度で油断してくれるなら、さっきの一発で仕留めれてたのになあって☆ そこだけは、本当に残念☆」

 残念そうにはとても見えないが、そこはどうでもいい。

「……私に何か用?」

「う~んとね、あのヒーローはちひろの獲物だから、手を引いてほしいなって☆」

「……それは、あなた個人のお願い? それとも、『八条会』としてのもの?」

「そこまで教えてあげる気はないかな! あはっ!☆」

 楽し気に答える上条さん。

「それで、ちひろのお願い、聞いてくれる?☆」

 わざとらしく上目遣いの上条さんだが、私の答えは決まっている。

「……嫌よ。上条さんのお願いは」

 聞けない。

 そう発しようとしたした瞬間、上条さんの銃口が私に向けられる。

「……!?」

 反射的に転がるように回避した瞬間、乾いた銃声が響き、私のいた場所を弾丸が通り過ぎる。

「……あたしはね、ここまで『お願い』してきたの。それを、『命令』にさせないでよ、鬼道さん」

 彼女の銃口が、私を捉える。

 私も刀を構えるが、正直不安だった。

 距離は2.5 m程。

 踏み込めば切れる距離だが、切るより先に上条さんの銃が火を噴く方が速いだろう。

「……」

「……」

 互いに睨み合い、膠着する。

 呼吸が自然と重くなる。

 僅かな隙が、生死を分ける。

 その時だった。

「てめえら! 何してやがる!?」

 男の大声が響いた。

 いたのは、数人の男達。

 柄が悪そうな出で立ちの構成員を見ると、おそらくヤクザの連中だ。

 まさか、上条さんの仲間か?

「げっ、おまえら、『二条』の……!?」

 上条さんが驚愕の声を上げる。

 どうやら、彼女の仲間ではないらしい。

 それは、好都合だ。

 彼女の気は、男達のおかげで逸れている。

「……!? あ、待て!」

 彼女が声を上げるより速く、私は街路を走る。

 決して振り返らずにひた走り、その場を離れることに全力する。

 しばらく走ると、誰もいない住宅街に抜けた。

 息を整え、刀をしまう。

 呼吸を整えてから、インカムで連絡を入れる。

「佐久弥です」

『あ、サクちゃん! 勝手に行動しないでよ! 風間さん困ってたっぽいよ!』

 あ、そういえば何も言わずに切りかかってしまったな。

 これは完全に私の失態だ。

「……すみません」

『も~、次から気を付けてよ!』

 珍しく瀬見さんが怒っている。

 普段は快活な彼女に怒られるのは、何だか申し訳ないな。これは要反省だ。

「すみません。それで、ヒーローはどうなりました?」

『あ~、逃げられたっぽい。サクちゃんに切られて逃げ切るなんて、よっぽどタフな奴なんだね』

 逃げられた? あの傷で? 風間さんから?

 いろいろと疑問が出てくるから、問いかけようとした。

 しかし、

『あ、ちょっと待ってサクちゃん!……え? 嘘!? マジ!?』

「……?」

 慌てた様子の瀬見さんの声が聞こえる。

 何か非常事態だろうか。

「何かあったんですか?」

『……あのね、落ち着いて聞いてね、サクちゃん』

 まるで自分にそう言い聞かせているかのように、瀬見さんから声が絞り出される。


『サクちゃんが張ってた古川って奴、自宅で死んだっぽい』

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