rest phase 2-1
物事とは、思うようにならないものである。
私、鬼道佐久弥が今感じていることがまさにそれだ。
今、時期は夏真っ盛り。
久しぶりにあいつ、嘉村と話して以来となる、約束していた当日。
そう、あいつと出かける日だ。
学校でいつにするか、どこに行くか考えていたところ(ほぼ嘉村の独り言)、先日に偶然紫苑さんの店で私の学校生活の公開暴露大会が突発的に発生した。
その中でうっかり、嘉村がした「今度鬼道さんと出かけるんだ」発言により、場は大混乱。しかも紫苑さんがそれを『JSA』内でチクったらしく、その日の内に、私のプライバシーは組織内で赤裸々となってしまった。
そして、それだけでは飽き足らず、
「ねえ、いい加減期限直してよ、サクちゃん?」
「……」
「お詫びとしてだけど、こうやって車出してんだからさー」
「……」
瀬見さんが申し訳なく話しかけてくる。
瀬見さんが運転するワンボックスカーに、私と嘉村、助手席に座ってずっと文庫本片手の風間さん、そして何故かついてきた上条さん。
つまり、二人で出かける計画は、完全に破綻した訳だ。
「……」
車窓から窓の外を睨む。
今は、何故か世界の全てが恨めしい。
「まあまあ、鬼道さん。せっかく車まで出してもらったんだし。ここはご厚意に甘えようよ、ね?」
「……」
隣に座る嘉村が宥めようと話しかけてくる。
思わず口を滑らせてしまった元凶なのだが、なぜかこいつだけは恨めないでいる。
「そうだよ佐久弥ちゃん☆ せっかくだから楽しもうよ☆」
鬱陶しい横ピースサインを決める上条さん。
いや、おまえは本当に何故来たんだよ。
「……上条さん、来てよかったの? 一応アイドルなんでしょう?」
「一応は余計です~! それに大丈夫だよ☆ みんなあたしが本人だなんてわかんないよ。そっくりさんだと思われるって☆」
なるほど。木を隠すなら森の中、ってことか。
まあ、確かに有名アイドルが自分達のすぐ近くにいるなんて思わないだろう。
多少考えてきてるらしい。
まあ、どうでもいいが。
「……とりあえず、何か考えてきてるのはわかった」
「それでOK!☆ それに、せっかくの夏なんだから、めい一杯楽しまなきゃ!☆」
「そうそう! さっすが上条ちゃんいいこと言う! んじゃ、早速行こうか!」
そう言って、さらにアクセルを踏み込む瀬見さん。
せめて、道路交通法は守ってもらいたいものだ。
もうちょっと、ゆっくり走ってもいいんだ。
隣に感じる、あいつの微かなぬくもりは、不快ではないから。
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