other phase 1-final

「ただいま~☆」

 上条ちひろが帰宅したのは、日暮すぎの頃だった。

 彼女を出迎えたのは、怒りに青筋まで立てている仁助だった。

「遅いぞ、ちひろ!」

 仁助の怒鳴り声がリビングに響く。

「ごめんね、仁兄☆ 連絡送った以上に遅くなって」

「……全くだ。心配かけるな」

 ため息をついて椅子に座る仁助。

 昼間は『一条組』の会合があり、困憊を極めていただけに怒りの沸点も低くなっていた。

 しかし、彼はちひろがあっさり謝ったことを意外に思っていた。

 彼女はある意味純粋だが意固地な部分があり、簡単に謝ることは珍しいのだ。

 こういう時は、得てして気分がいい時が多い。

「……朝とは随分と違うな。何かいいことあったか?」

 仁助が尋ねる。

「う~ん、……」

 ちひろは少し考えると、

「……内緒、だよ☆」

 と天真爛漫な笑顔で答えた。

「……そうか」

 不敵に笑う仁助。

「あ、ちひろ、お風呂の準備してくるね☆」

「ああ、頼むわ」

 ちひろが離れていくのを見送ると、仁助は自身の携帯で新堂に連絡を取る。

「新堂、俺だ。今日ちひろに何か悪い虫が付かなかったか、入念に調べろ。万が一あった場合は、連中の処分は任せる」

 そう言って、通話を切った。

 仁助にとって、ちひろは血を分けた兄妹。

 とても大切だからこその、行動だった。

 この普通の観点からすると『行き過ぎた行動』に、辟易する組員もいるのだが。

 一方のちひろはお風呂の準備をしながら、今日の出来事を反芻していた。

 過去に自分を救ってくれた人と、同じことを言った少年。

 彼のことが、脳裏に焼き付いて離れなかった。

「……本当は、ダメなんだろうな」

 思わず独り言ちる。

 彼女は極道であり、学生であり、アイドル。

 恋愛などもってのほかなのかもしれない。

 しかし、

「……まあ、関係ないか☆」

 ちひろは笑う。

 アイドルだからとか、極道だからとか、関係ない。

 自分がしたいから、欲しいからやる。

 そんなわがままで自分勝手。

 それこそが、上条ちひろなのだ。

「よ~し、明日もがんばっちゃうぞ☆」

 高らかに、誰に言うでもなく宣言した。


 数時間後、昼間にちひろに絡んできたチャラ男達が、組員から『制裁』を受けることになるのだが、それはまた別の話。

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