other phase 1-4

 ここは駅から少し離れた路地裏だった。

 時間的に影が濃くなり、人通りも少ない。

 そんな場所にいるのは、嘉村とちひろの二人だけだった。

「嘉村くん、よくあたしだってわかったね?」

「……実を言うと、自信はなかったんだ」

 そう言って照れ臭そうに頬をかく嘉村。

「遠目に偶然見かけて、なんだか背格好的に上条さんかな、って思ったんだ。なんだか面倒臭そうにしてるし、何とかできないかな、って」

「……それってさ、嘉村君の勘違いで、ちひろが実は乗り気だったらどうするつもりだったの?」

「……えっと、とりあえず謝って許してもらおうと……」

 目線を逸らしながら、嘉村は答える。

 つまるところ、彼は何も考えずに行動したらしい。

 何とも無鉄砲というか、蛮勇というか。

「……はぁ」

 ちひろの口から呆れた調子のため息が漏れる。

 最初はちょっとかっこいいかな、と思ってしまった自分が、なんだか虚しく感じてしまう。

「……でも、ありがとうね。嘉村くんいなかったら、どうしようか全く考えてなかったからさ☆」

「……うん、そう言ってもらえると、ありがたいかな、僕も」

 そう言ってまた頬をかく嘉村。

 実際、ちひろが感謝しているのは本当だった。

 あの場面で『八条会』の組員を呼ぶわけにもいかないし、かといって自分でどうにかなったかと言えば、実力行使しか思いつかなかったかもしれなかった。

 戦闘狂の一面もある彼女ではあるのだが、一応の分別は弁えているのである。

「……」

「……」

 お互いに少し照れ臭くなり、無言の時間が流れる。

 決して嫌な感じではなく、むしろ居心地のいい時間。

 芸能界や極道では感じることのできない雰囲気に、居心地の良さをちひろは感じ始めていた。

「……」

 そんな温かい感覚に、ちひろはどこか懐かしさを感じていた。

 どこで感じたのかはわからない。

 そんな遠い記憶で、ちひろにとっては大切な時間。

 いつ、どこで感じたものだったろうか。

「……」

 ちひろが考え始めた。

 そんな時だった。

「いたぞ! こっちだ!」

 雰囲気をぶち壊して大声が響いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る