other phase 1-3
「ん~! 疲れた~!」
インタビューを終え、思い切り背伸びをするちひろ。
翌週のライブへ向けてのインタビューは、彼女にとってはいつものことだったので、そこまで疲れるようなものではなかった。
そんな中、ふとスマホを取り出す。
画面に表示された時間を見ると、もうすっかりお昼時だ。
予定では仁助が迎えに来るはずなのだが、今の彼女にとっては少し物足りなかった。
「……そうだ!」
思い立った彼女は、SNSで仁助にメッセージを送ると、雑居ビルのトイレに入る。
そこで簡単に帽子とサングラスで変装して、自身がアイドルだとばれないようにする。
そこまでの準備をして彼女は、思い切って街に繰り出した。
人気アイドルでもある彼女が街に出れば、下手すればトラブルの元だ。だからこそ新堂のような護衛がついていたりするのだが、今日のちひろにとっては、彼は邪魔者以外の何物でもなかった。
まあそんな新堂も、今朝のことがあって今は彼女の近くについていないのだが。
「さて、と」
街に繰り出したはいいものの、何をしようかまでは考えていなかったちひろは、とりあえず近くの駅まで歩いてきた。
現在地からそこまで離れておらず、大型のショッピングモールを併設したこの駅なら、とりあえず何かしら遊べるだろうという短絡的に考えただけなのだが。
しかし、こういう場ではめんどくさいことがあるのも事実である。
「よお、お嬢ちゃん一人?」
こういった、露骨にナンパしてくるような奴が。
「俺達さ、これからカラオケ行くんだけど、君も来ない?」
「てかさ、めっちゃ可愛くね?」
「もしかして、アイドルに似てるって言われるっしょ?」
金髪にピアスをした、明らかにチャラそうな男達が話しかけてくる。
「え~、どうしようかな~」
そんな適当なことを言いながら、こいつらをどうあしらったものかと考えるちひろ。
このようなことが初めてなわけではないが、いつもは新堂が追い払っているため、自分で何とかするのは経験値が少ない。
相手がその筋の人間なら、隠し持ってるベレッタを発砲して終わりなのだが、ここは人目もあるし、何より一般人だ。
極道者の矜持として、一般人は攻撃しない。
これは、仁助からの教えでもあったため、絶対に裏切りたくない信条だった。
「なあ、いいだろう?」
とはいえ、しつこい男達に、流石にそろそろうんざりしてきた。
その時だった。
突然、何者かに手を掴まれたのは。
「……!?」
「こっち!」
不意打ちのように手を掴まれたまま、ちひろはその手に引かれる。
何が起こったかわからぬまま、手を引かれて走るちひろ。
ようやく思考が追い付いてきたとき、初めて何者に手を引かれていたのか認識した。
彼は、自分と同じ学校の制服を着ていた。
男女の違いはあるが、人の好さそうな顔立ちに黒ぶち眼鏡の彼は、どこかで見覚えがあった。
「……ここまで来れば、大丈夫かな?」
息を切らせながら、彼が口を開く。
「……えっと、嘉村くん、だよね?」
「うん。無事でよかったよ、上条さん」
彼、嘉村真一は少し頼りなさげにはにかんだような、照れ臭そうな笑みを浮かべた。
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