4th phase-final

 あのホテルでの出来事から、数日が経過した。

 無事にコンバルトさんの護衛を終え、空港を離れるまで、彼を襲ってくる連中はいなかった。

 まあ、彼がこの国を離れるまでにあった出来事は、私にとって早く忘れ去ってしまいたいことではあるのだが。

 それと、これもまたどうでもいいことなんだが、所長が元に戻ったらしい。

 いつも通りに鬱陶しい絡み方をされて、何とも辟易して投げ飛ばしたのは記憶に新しい。

 教室への階段を上り、教室前に視線が行く。

 そこに、

「あっ……」

「あ、おはよう。鬼道さん」

 嘉村真一が、そこにはいた。

 どうやらこいつも、私とタイミングを同じくして教室についたらしい。

「……」

 なぜだろう。

 どうにも、足が重たい。

 どこか嬉しくもあり、同時に気恥ずかしいこの感じ。

 本当に、この感じは何なんだろうか。

「? 入らないの、鬼道さん?」

 不思議そうな顔をして私を見つめる。

「……いや」

 ぶっきらぼうに、半ばやけになって無理やり体を動かし、嘉村より先に教室に入る。

「……」

 いつものように、席に座り、突っ伏して寝てる振りをする。

 少し遅れてあいつも教室に入って、自分の席に着いた。

「……こうやって話すのも、久しぶりな気がするね」

 嘉村がつぶやく。

 確かに、その通りだ。

 コンバルトさんが来てからというもの、彼が異常なまでに話しかけてきたこともあって、こうやってゆっくりこいつの声を聞くこともなかった。

 短くて長い、1週間だったな。

 今だからこそ、思うことではあるのだが。

「最近、大丈夫? なんだか、ケガしてたみたいだけど?」

「……っ!?」

 気づかれてた!?

 今更ではあるが、今まで聞いてこられなかった分、完全に不意打ちになっていた。

「……何をしてるのかまでは聞かないけど、あんまり無茶しないでね」

「……」

 なんだろう。

 すごく、申し訳ない気分になってくる。

 だからと言って、自分がしていることなど話せないのだが。

「……そういえば、もうすぐ学期末テストだね」

 ああ、そういえばもうそんな時期か。

 まあ赤点取ることなんてないから、私にはどうでもいいことなのだが。

「それが終われば、夏休みか。なんだかあっという間だよ」

「……」

 そうか。

 夏休みになると、こいつとも合わなくなってしまうのか。

 ……なぜだか、少し寂しさを感じる。

「……ねえ、鬼道さん」

 あいつが聞く。


「夏休みになったらさ、一緒に遊びに行かない?」


「……ふえっ!?」

 思わず起き上がり、変な声まで出してしまった。

 かなりの衝撃だった。

 顔が熱くなり、胸の鼓動が速くなる。

 いったいなぜこうなっているのか、自分でも制御できない。

「……起きてたの、鬼道さん?」

 一瞬驚いた顔をして、今度は照れ臭そうに頬をかく嘉村。

「えっと、もしよかったらの話だから、気にしないで……」

「……待って」

 なぜか、呼び止めてしまう。

「……行く」

「……え?」

「……一緒に、遊ぶ」

 なぜか、そう言った。

 言ってしまった。

 目の前の男の顔を直視できず、他所を向きながらだったが。

「……」

 さらに顔が熱くなる。

 もしかしたら、何か体に異常があるんじゃないのだろうか。

「……ありがとう。じゃあ、日にちは……」

 嬉しそうに笑ってさらに話し出すこいつは、本当に楽しげだ。

 嗚呼、なぜ私はこいつの誘いに乗ってしまったのだろうか。

 だが、不思議と嫌な感じではなかった。

 それどころか、さらに温かい感じがした。

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