4th phase-8
「……んで、結局、俺の相手は嬢ちゃんでいいのか?」
ジョーンが若干気だるげに言う。
私も刀を抜き、脇構えに構える。
そして、
「open the eye」
眼帯を外し、『眼』を起動する。
「お、何だ、その『眼』はよぉ?」
少し驚いたらしいジョーンは、これを見た瞬間にファイティングポーズを取った。
私の『眼』は、ジョーンを捉えた瞬間に解析を開始する。
高速で演算された結果、やはり首は装甲が薄いらしい。
また、ジョーンも何か腹部に仕込んでいるらしいことが分かった。この部分に熱源反応があったからわかったことだ。
「……」
とはいえ、攻めあぐねている自分がいる。
迂闊に攻めれば、手痛い反撃を食らう可能性が高いのも事実だ。
何しろ、首以外は鋼鉄なのだから刃が通ることはない。
弱点がわかっているだけに、狙うのが難しい。
どうやって戦うか思考を巡らせる。
その時だった。
『へ~い、元気にしてるかい、俺のかわいこちゃん!』
鬱陶しい声が聞こえた。
所長とは違う意味合いで鬱陶しいことこの上ない人物からの声に、苛立ちを覚える。
「キッドさん、今戦闘中ですよ」
『ああ。こっちからでもばっちり見えてるぜ。麗しの佐久弥ちゃんを拉致したって糞野郎の面がよぉ』
インカム越しに憤りの声を聞きながら、私はキッドこと、木登將司に言う。
「キッドさん、やつはサイボーグです。首以外への攻撃は効きません」
『らしいな。最近の先端技術はすげぇな。まあ、俺達が言えたことじゃねえがよ』
「感心してる場合じゃないですよ!」
『悪い悪い。んじゃ、佐久弥ちゃん。俺が援護するから、隙をついて奴さんの首を取っちまいな』
簡単に言ってくれる。
かなり弱点の防御を固めてる奴から隙をつくのは難しいのに。
「おいおい、おしゃべりはもういい……ぜ!」
ジョーンから渾身のストレートが飛んでくる。
「……!」
即座にしゃがんで回避する。
「……お?」
一瞬、私が消えたように見えたのであろう声がジョーンから聞こえた。
ここだ。
私は脇構えから切り上げるように、刀を薙ぐ。
刀身はジョーンの首めがけて進む。
だが、
「……あめぇよ」
そういって、片手で刀を受け止められた。
「……っ!」
「同じような手に何度もかかるかってんだ。このまま、この刀へし折ってやるよ」
ジョーンの指に力が籠められる。
その時だった。
巨大な轟音が響いたのは。
「……っ!?」
一瞬、何が起こったのかわからなかったが、私の『眼』はそれを確実に捉えていた。
ビルの外から飛来した、一つの巨大な弾丸。
12.7 mmのその弾丸は、世にアンチマテリアルライフルと呼ばれる、対戦車用の弾丸だ。
その弾丸は真っ直ぐジョーンに着弾し、男の腕を吹き飛ばした。
「……おいおい、マジかよ。この腕、かなりの特注品なんだぜ。それをあっさり吹っ飛ばしてくれてよぉ……!?」
驚愕の表情を浮かべるジョーンは腕が消し飛び、胸部も一部損壊しているようだった。
私の刀が無事だったのも、その衝撃さえも計算に入れ、絶妙な位置に弾丸を放ったからに他ならない。
『……今だぜ、やっちまいな』
インカム越しに聞こえる声に反応して、即座に動く。
「……!?」
ジョーンの背後に回ると、刀を振り上げ、そのまま切り下した。
胴体と分かれた頭が、床に落ちる。
「……ふぅ」
息を一つつく。そうして、ようやくこの戦闘が終了したと思った。
『よう、お疲れさん。無事で何よりだぜ、愛しの佐久弥ちゃん』
キッドさんの軽口が聞こえる。
こういう事さえ言わなければ、素直に感謝してもいいと思うのに。
「……その呼び方、やめてください。それと、キッドさん、既婚者じゃないですか。あんまり言ってると、奥さん悲しみますよ」
『その辺は大丈夫だ。俺は世界中のレディを愛してるからな。もちろん、妻も愛してるぜ』
「……」
ついこの間、そのせいで奥さんに殺されかけたと言っていた男の言葉とは思えない。
呆れて、またため息が漏れる。
「あら、そっちも終わったみたいね」
そう言って声をかけてきたのは、傷一つなく歩いてきた巨漢、紫苑さんだった。
どうやら、向こうも終わったみたいだ。
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