第132話 爆弾岩
-side 田島亮-
こちら京都府某ホテル一階、大浴場更衣室前……いや、まあ正確には大浴場から数十メートルほど離れた廊下の角だが、その辺はどうでもいい。ともかく現在、俺は『着替え中の女子の会話を盗み聞きしたい』とかいう、RBI共のよくわからん野望を見届けるべく、わざわざ一階まで降りてきたところである。
本音を言うと、今すぐにでも部屋に戻りたい。が、西川は割と私怨でエグいことを平気でしてくるヤツであり、このまま俺がバックレれたらそれはそれで後々面倒な展開になる気がする。というわけで俺は、一応ヤツのお望み通り、こうして少し離れた場所から変態行為を見ておくことにした。おそらく人生史上トップレベルに無駄な時間である。
「つーか……怪しすぎるだろアイツら……」
更衣室入り口の数メートル前には自販機、マッサージチェア、ソファー等が並んでいるスペースがあるのだが、何を思ったか、どうやらあのバカ3人はソファーの上で身を縮めながら更衣室の様子を伺っている様子。おそらく人通りが少なったタイミングで更衣室に接近するつもりなのだろう。たしか、今は一組の女子が入浴中だったはずだ。
しかし、ヤツらはアレで身を隠しているつもりなのだろうか。不審な動きをしている分、むしろ怪しさが増している気がする。というより、アレだとソファの上で男子三人が丸まっているだけだ。状況的にも絵面的にも、非常に気持ち悪いのでやめてほしい。
「……お、動き始めたな」
しばらくは人が来ないと判断したのか、西川のジェスチャーと共にRBI三人が更衣室入口へと急接近し始めた。これまでに見たことが無いほどの機敏な動きだが……なぜだろう。ヤツらを応援するのは非常に抵抗がある。先生に見つかって叱られればいいのに。
「おい、西川、脇谷、吉原。お前ら、こんなところで何をしてるんだ?」
──と、願ったところで速攻体育教師登場。様式美のごとき爆速フラグ回収である。
「あ、いや、えっと、これはですね、えっと、その……」
立ちはだかる教師を目の前にした途端、いつもの威勢が消え去るバカ3人組。まあ、無理もない。なんせ、あの体育教師は2メートル近い身長、そしてゴツゴツと隆起しまくった筋肉を持つことから、通称”爆弾岩”と呼ばれる男である。昨今は色々と厳しい世の中であるため体罰を受けることは無いだろうが、ヤツの威圧感の前にはひれ伏すしかあるまい。ここは素直に悪事を白状して謝るのが賢い選択というものであり──
「これでもくらえ! 爆弾岩!!」
「あがぁっ!?」
失敬。ヤツらに賢さなど微塵も無かった。何を思ったか、爆弾岩の隙を突いた脇谷が唐突にカンチョーをカマしやがった。
「ぐおおっ……! 脇谷ぁ! お前、急に何しやがる……!」
尻を抑え、涙目でRBIを睨みつける爆弾岩。こんな例えをするのは失礼なんだろうが、どうやってもバケモノにしか見えない。
「今だっ! 西川! 吉原! 爆弾岩がひるんでるうちに逃げるぞ!」
「「おうっ!!」」
そしてカンチョー実行犯、脇谷の合図により逃走を図るバカ3人衆。息がピッタリなのは仲が良い証拠で大変よろしいのだが、やっているのは小学生レベルの悪事である。つーかコイツら、逃げ切った後のことは何か考えているのだろうか。今逃げたところで、次に会った時に爆弾岩が怒りを爆発させるのがオチだと思うのだが。
「「「田島ぁぁぁぁ!!!! 助けてくれぇぇぇぇぇ!!!!!」」」
「って、なんでアイツらコッチ来てんだよ!?」
今度はなぜか、3バカが数十メートルほど離れた曲がり角で一部始終を見ていた俺の元に突っ走り始めやがった。
「いやいやいや! 俺を巻き込むなっつーの!! ってかおいお前ら、後ろ! 後ろ見てみろ!!」
気づけば、先ほどまで悶絶した爆弾岩が復活。すぐさま、RBIの背中を追って走りだした。
「待てやぁぁぁぁぁぁ! この問題児共がぁぁぁぁぁ!!!!!」
鬼の形相、とはまさしく今の爆弾岩の表情のことを言うのだろう。加えて言うと、今の俺の視界は地獄絵図そのものである。何が悲しくて、俺はわざわざ修学旅行中に怪物を引き連れて猛ダッシュでこっちに迫ってくる男3人組を見なきゃいけないのだろうか。
「待てやゴラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「「「ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」」」
と、そんな無意味な逃走劇を見せつけられること、約数秒。
「っしゃ、捕まえたぞオラァ!!!」
「「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」
ヤツらは俺の元にたどり着く前に、無事、爆弾岩から捕獲された。
「……部屋戻るか」
その後、RBIの話によると、ヤツらは爆弾岩から女子風呂覗きを疑われたらしいが、奈々ちゃん先生のスリーサイズ(※情報提供者・新島翔)をこっそり爆弾岩に教えることにより、容疑を晴らすことに成功したらしい。
……おい。それでいいのか、爆弾岩。
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