第53話 勉強ブーム?

-side 田島亮-


 本日は6月11日。6月の第2日曜日である。休日なので昼過ぎまで寝ていたのだが、起床して枕元に置いている携帯を見ると大量の通知が来ていた。


 まず1件目のメッセージがこちら。


渋沢アリス:『おはようダーリン! 期末テストまであと1ヶ月になったわね! というわけで私、英語が苦手なダーリンのために一肌脱ごうと思うの! あ、服を脱ぐってわけじゃないよ? 英語教えてあげるってことだからね? まあダーリンがお望みなら服脱いだ状態で英語教えてあげるのもいいけど♪』


 そして2件目のメッセージがこちら。


岬京香:『田島くんおはよう! 期末テストが近づいてきたね! それでさ、もし田島くんに迷惑じゃなければ数学が苦手な田島くんために勉強を見てあげたいなって思ってるんだけど...予定が空いている日を教えてくれたら嬉しいな』


 そして3件目のメッセージがこちら。


仁科唯:『おはよう田島! なんか気づいたらテストまで1ヶ月になってたわね! どうせアンタ1人ではちゃんと勉強できないでしょ? だから今回のテスト期間は私が一緒に勉強してあげるわ! バカ同士協力してテスト期間を乗り切ろうじゃない!』


 そして4件目のメッセージがこちら。


市村咲:『亮、おはよう。テストまであと1ヶ月ね。でもどうせアンタ補習以外ではまともな勉強してないでしょ? 私理系だけど古典は得意だから今度アンタに教えてあげるわ。後で空いている日を教えなさい』


 そして最後のメッセージがこちら。


新島翔:『〜吉原おかえりなさいの会開催のお知らせ〜 先日行われた体育祭以降、元RBI会頭の吉原様は彼女と会話をしていないようです。私たちはこの事実から彼が彼女と別れ、1年生の時のような『クソ陰キャ』に戻ったと判断しました。その結果、また彼が安心してRBIに戻ってこられるように『吉原おかえりなさいの会』を開催することになりました。日時や場所の詳細は追って連絡させていただきます』


 朝の間に俺に届いていたメッセージは以上だ。



 ...え、なに? 今勉強ブームなの?


 最後の男から届いていた頭の悪い内容のメッセージ以外は全て1ヶ月後に行われる期末テストに向けてのものだった。正直テストがある1ヶ月前からテストのことを意識したことなんてないからテストの存在そのものを忘れてた。やっぱ天明高校の生徒って早めにテスト勉強するのな。意識高いわ。


 内容から察するにどうやら彼女たちはバカな俺のために一緒に勉強してくれるらしい。ありがたい提案だ。快く受け入れることにしよう。


 よし、そうと決まったなら早速返信しないとな。



-side 渋沢アリス-


 日曜日の午後、私は家の近くにあるカフェで勉強しながら頭を抱えていた。


「おかしい...もう昼過ぎなのにまだダーリンから返事が来ない...朝早くにメッセージ送ったはずなのに...」


 そう、私はダーリンを勉強デートに誘うために今朝メッセージを送ったのだ。


 だってよくよく考えたら私ってまだちゃんとダーリンを誘ったことないんだもん。もう3年生になったしそろそろデートの1つにでも誘わないといけないと思ったわけ。まあ返信が遅いから今少し不安になってるんだけど。


『おはようダーリン! 期末テストまであと1ヶ月になったわね! というわけで私、英語が苦手なダーリンのために一肌脱ごうと思うの! あ、服を脱ぐってわけじゃないよ? 英語教えてあげるってことだからね? まあダーリンがお望みなら服脱いだ状態で英語教えてあげるのもいいけど』


 もしかしてこの文面がマズかったのかしら。最後の『服脱いだ状態でもOK』が余計だったのかしら。


 いや、でもダーリンならこれくらいの冗談なんて気にせずいつもみたいにツッコんでくれるはずよね。うん、落ち着くのよアリス。そろそろ返信が来るはず。


 そんな風に自分を落ち着かせていると突然バッグに入れている携帯が鳴動した。


「やっと返信来た!」


 待ちわびていた返信が来て気持ちが高揚した私は慌ててバッグから携帯を取り出し、通知を確認した。


『英語マジで苦手なので是非ご指導のほどよろしくお願いします。※服は着たままで』


 よし! 勉強デート決定ね! やったわ!


 ...あ、喜んでばかりじゃダメよね。早く返信しないと。


『うふふ、デートの誘いを受け入れてくれて嬉しいわ、ダーリン』


 そして私がメッセージを送ると返信はすぐに来た。


『え、これってデートなんですか?』


『勉強デートってやつよ』


『そんなもんなんですか...ところで日程と場所はどうします?』


 ...え、『デート』ってワードに対する反応軽くない? 仮にも私という美少女と2人きりになれるのよ? もう少し反応してくれてもいいんじゃないの?


『ねえダーリン、金髪美少女の先輩と2人きりになれるのよ? しかもあなたが望めばその先輩は脱いでくれるのよ? どうしてそんなに反応がドライなのよ』


『うわ、ついにこの人自分で美少女って言っちゃったよ...ていうか脱衣の話はさっき終わったでしょうが!』


『で、どうしてそんなに反応が薄いのよ』


『え? だって俺とアリス先輩って今まで何回も2人で登校したことあるじゃないですか。今さら緊張なんてしませんよ』


 うっ、今までのアピールが裏目に出たか...


『なるほど、ダーリンは女慣れしちゃったのね』


『いや、変な言い方するのやめてもらえません!?』


『じゃあ日時と場所について相談しましょうか』


『そうしましょう』


『2週間後の木曜日の放課後に新聞部室で、というのはどう? 2週間後ならテスト期間で部活もないから新聞部室には誰もいないし』


『いいと思います。異議なしです』


『じゃあ決まりね!』


『なんかすいませんね。アリス先輩受験生なのに俺のために時間割いてもらうことになっちゃって』


 もう、ダーリンって変なところで謙虚なのよね。誘ったのは私なんだから謝ることなんてないのに。


『いいのいいの! 私にとっては受験なんかよりダーリンの方が大事なんだから!』


『その言葉はありがたいですけど受験の方も大事にして下さいね...』


『ダーリンは私の勉強の心配なんてしなくてもいいの! まずは自分の勉強を心配しなくちゃ!』


『うっ...その通り過ぎてぐうの音も出ない...』


『じゃあ2週間後の木曜ね! 私部室で待ってるから!』


『了解です。ご指導のほどよろしくお願いします』


 こうして私とダーリンのメッセージのやりとりは終わった。



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 うーん、ダーリンが私と2人きりという状況に慣れているのは誤算だったわ...でもさすがに8ヶ月も一緒に登校してたらそりゃ慣れるか...なんで私そんなことに気づかなかったのかしら...


 うん、まあダーリンが私と居ることに慣れているのは仕方ない。だったらその状況を逆手に取るまでよ。


 そうだ! 英語の指導を通して普段とは違う知的な先輩オーラを出せばいいんだわ! アレよ!ギャップ萌えってやつよ! 普段はテンション高くて元気な先輩が勉強してる時は知的でちょっと大人っぽい雰囲気になる、みたいな感じにすればいいんだわ! そうすればきっとダーリンも普段と違う私にドキドキするばずよ! 


 よーし! 『知的で大人な女性』になってダーリンを誘惑してやるわ! 


 ...うふふ、覚悟してなさいよね、マイダーリン♪

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