第41話 俺は実況者
-side 田島亮-
本日は5月7日。新学期が始まってからちょうど1ヶ月が経過した。まだ5月だというのに夏なのかと疑いたくなるほど暑く、日差しがとてもうっとおしい。
そして今日は別に楽しみにしているわけでもなかった体育祭の日である。
実は俺体育祭ってあまり好きじゃないんだよね。
いや、別に体育祭の全てが嫌いというわけではないぞ。個人競技に出てるクラスメイトを応援するのは楽しいだろうし、団体競技に勝って友達と喜びを分かち合うのはすごく楽しいんだろう。それと多分謎の補正がかかって体育祭の時に食う弁当って相当美味いんだと思う。まあ今まで体験した体育祭のことなんて全部忘れてるからあくまでこれは一般的な印象でしかないんだけども。
ではなぜ俺は体育祭をあまり好まないのか。その理由はただ1つ。それは『運動できない人をガチでディスる体育祭ガチ勢』の存在だ。
いや、俺が知る限りそんなヤツら滅多にいないんだけどさ、昨日体育祭の予行演習中に偶然見つけちゃったんだよ、そんなヤツらを。
プログラム最後の3年生全員リレーの時にさ、1人明らかに足が遅い男子の先輩がいたんだよ。それでその先輩に向かって色々言ってる3年生達が何人かいたわけ。
いや、最後の体育祭だから気合い入るのも分からなくは無いよ? でも足が遅い人をディスるのはちょっと違うじゃん? そこは最後の体育祭だからこそ皆で楽しめるように応援するべきなんじゃないの?
人には努力でどうにかできるものもあれば、努力してもどうにもならないものもある。足の速さなんていうものはまさに後者だと思う。
『空を飛べ』と言われても空飛べないだろ? 走るのが苦手な人にとってはさ、『早く走れ』っていう言葉は『空を飛べ』って言われてるのと同じようなもんなんじゃないの? まあ俺はそもそも走れないからその辺はよく分からないんだけどさ。
まあそういうわけで俺は体育祭に対して少しだけ悪い印象を抱いているのである。
...つーか俺医者から運動止められてるから出られる競技1つも無いんですけど。なにそれ全然面白くない。ぶっちゃけ今日の体育祭休もうかなとか一瞬考えた。
でも俺は今日の体育祭を休むことは絶対にできなかった。なぜかというと...
「田島、そろそろ入場行進の時間だが放送の準備は出来ているか? 原稿ちゃんと読み込んだか?」
「まあ準備はちゃんと出来てますけどどうなっても知りませんからね。俺が噛みまくっても柏木先生の責任ですからね」
そう、俺は柏木先生のゴリ押しによって体育祭の放送担当になってしまったのである。
放送担当とはザックリ言うと『赤組、頑張ってください!』とか『白組、速いです!』とか言う係のことである。
というわけで、もうすぐ入場行進が始まるというにも関わらず、現在俺は入場門から遠く離れた本部のテントに設置された放送席に1人居座っている。
「はは、自信を持て田島。お前は頭は悪いが口は達者だし、声はよく通る。気楽に行け」
「うわー、生徒に向かって頭悪いとか言ってるー。そんなこと言っちゃダメなんだぞー」
「ふふ、今更何を言ってるんだ。私の言葉なんか全然気にしていないくせに」
「チッ、バレたか」
「もうじき入場行進が始まるからお喋りはここまでだ。じゃあ頑張れよ」
「うっす」
そして柏木先生は教員が集まっているテントへと戻っていった。
...よし、そろそろ時間だな。
入場行進の開始を告げるべく、俺は目の前にあるマイクのスイッチを入れた。
グラウンドを見回すと、沢山の父兄や来賓が訪れているのが分かる。俺と違ってこの人達はきっと今日という日を楽しみにしていたんだろうな。
だったらこの人達が楽しめるように俺も頑張らないといけないかもな。後遺症のせいで競技には出られないが、裏方としてこの体育祭に貢献することくらいならできるだろう。
そしてついに体育祭の開始時刻になった。今から俺の声がグラウンド中に響き渡ることを考えると、どうしても緊張してしまう。
緊張を振り払うように息を大きく吸い、マイクに顔を近づける。さあ、いよいよ放送開始だ。
「ご来場の皆様、大変長らくお待たせ致しました。ただ今より第51回私立天明高等学校体育祭を開始します。まずは選手全員による入場行進が行われます。入場門にご注目下さい」
...よし、大体の観客が入場門の方を向いたな。もう行進を始めてもいいだろう。
そして俺はまた大きく息を吸い込み、マイクへ声を通す準備をする。さあ、体育祭の始まりだ。
「選手入場!!」
俺の掛け声とともに全校生徒が行進を始める。はは、なんだか自分が指揮官になったような気分だ。放送担当も思っていたより悪くないかもな。
こうして今年の天明高校体育祭は俺の掛け声とともに幕を開けた。
ーーーー-------------------
入場行進と開会式が終わり、 まもなく本格的に競技が開始されることになった。
ちなみに天明高校の体育祭は赤組、青組、白組の3グループに分けられおり、
1組、4組の生徒(吉原、脇谷、西川、友恵)→赤組
2組、5組の生徒(相川さん、リンさん、アリス先輩)→白組
3組、6組の生徒(俺、翔、仁科、岬さん、咲)→青組
という内訳になっている。
まあ俺は組分けとかあんま気にしてないんだけどな。放送担当だから皆平等に応援しないといけないし。まあ自分が所属している青組の生徒には頑張ってほしいと思ってるけど。
「田島くん! そろそろプログラム1番の200m走の時間だからアナウンスお願い!」
「了解です」
体育祭実行委員長の一条真紀先輩に促され、放送の準備をする。どうやら200m走に出場する生徒の入場が完了したようだ。
「まもなくプログラム1番、各学年の女子による100m走の時間です。この競技には1レース当たり6人の選手が出場し、1年生の部が4レース、2年生の部が5レース、3年生の部が6レース、計15レースが行われます。それでは第1レース出場者の皆さんはスタートラインに並んでください」
そして俺の放送が終わると審判係の生徒の掛け声とともに第1レースがスタートした。
-----------------------
競技は順調に進み、ついに一年生の部のラストレースを迎えた。
...あれ? 今スタートラインに並んでる一年生の中に見覚えのある美少女がいる気がするんだけど。
...あー、うん。赤のハチマキしてるしアレ絶対友恵だわ。確かアイツは赤組だったはずだ。つーか友恵のやつ100m走の選手に選ばれてたのかよ。そんなの知らなかったんだけど。出場するなら俺に一言くれてもいいじゃないか。
...おっと、いかんいかん。そろそろレースが始まってしまう。放送に集中せねば。友恵が出場するからといってアイツを贔屓しないように気をつけないとな。
「位置について! よーい...ドン!」
その審判の掛け声と共に一斉に選手たちが走り始めた。友恵はスタートダッシュに成功したようで、スタート直後から先頭に立っている。
「赤組、速いです!」
...うん、まあこの程度の言葉なら贔屓にはならないだろう。
その後も友恵はどんどん加速していき、後続との差を広げていく。完全に独走状態だ。
うわ、こいつ勉強できるだけじゃなくて足も速いじゃねえか。なんだよお前、完璧人間かよ。
その時、誰もが友恵はぶっちぎりの一位でゴールすると思っていただろう。しかし、突然思わぬアクシデントが起きた。なんと友恵がいきなり転倒したのである。
友恵はすぐに立ち上がったが、後続との差がほとんど無くなってしまった。このままでは負けてしまうかもしれない。
あ、そうだ。確かこういう時は『赤組、頑張ってください』って言わなきゃいけないんだっけ。
「赤組、頑張って下さい! 頑張れ赤組! 負けるな友恵! お前は出来る子だ! ゴールは目の前だぞ! ファイトだ友恵ぇぇぇ!!!」
......あ、やっちまった。
「ちょっと田島くん何やってんのよ!! あなた赤組応援しすぎでしょ! ていうか最後は個人的に自分の妹を応援してたでしょ!」
隣に座っている一条先輩に思いっきり怒鳴られてしまった。どうやら俺の実況(妹贔屓100%)に対して相当お怒りのようだ。
「す、すみません...」
「はぁ...次からはちゃんとしてよね...」
「肝に命じておきます...」
一条先輩に怒られた後、もう一度グラウンドに目を戻すと退場門付近にいる友恵を見つけた。よく見ると体操服の袖に金のバッジを付けている。どうやら無事1位でゴール出来たようだ。
...あれ? でもなんかアイツ顔真っ赤じゃね? なんでだ? 走り終えたばっかりだから体温上がってるのか?
「ちょっと、田島くん! すぐに2年生のレースが始まるのよ! なにボーッとしてんの!」
「す、すみません!」
いや、放送係ってホント忙しいな。一息つく暇もないじゃん。
さて、次は2年生のレースか。今度こそ贔屓がない実況をしないとな。
そう思いながら俺は現在スタートラインに並んでいる2年生の顔ぶれを見てみた。
...おい、また見覚えのある顔があるんだけど。あのさ、やりにくいからホントそういうのやめてくんない?
あそこに並んでるのどっからどう見ても咲じゃねえか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます