第33話 新クラス発表

-side 田島亮-


 咲とアリス先輩のせいでかなり神経がすり減ったが、俺はなんとか学校にたどり着くことができた。


 そして今俺は咲と一緒に学校の玄関前に張り出された新クラスの生徒名簿に目を通している。


 ちなみにアリス先輩は学校に着いた段階で俺たちと別れ、今は3年生の人達に混ざって新クラスの生徒名簿を眺めている。


 天明高校は2年生以降のクラス分けを生徒の学力と文理選択によって判断しており、


1組・・・文系最上位レベル

2組・・・文系中間レベル

3組・・・文系底辺レベル

4組・・・理系底辺レベル

5組・・・理系中間レベル

6組・・・理系最上位レベル


という内訳になっている。


 そして名簿にある程度目を通した俺は自分と関わりのある人物がどのクラスになったのかをある程度把握することができた。


1組・・・脇谷、西川

2組・・・相川さん

3組・・・俺、翔、仁科

4組・・・吉原

5組・・・リンさん

6組・・・岬さん、咲


 という振り分けになっていた。


 RBIの脇谷と西川が文系最上位の1組ってマジかよ...あいつら見かけによらず成績良かったんだな...でも吉原が1人だけRBIからハブられててなんか可哀想だな...


 岬さんと咲は理系最上位の6組か。まああの2人が頭が良いことは知ってたからそんなに不思議でもないな。


 相川さんとリンさんは中間クラスか。まあ中間っていっても進学校の天明高校基準だからな。多分2人とも十分学力があるのだろう。


 そして特待生3人組は安定の底辺クラスか。まあなんとなく分かってたけどな。でも翔と仁科が同じクラスにいるならクラス替えをしても喋る相手がいないということはないだろう。あいつらが同じクラスに居てくれて良かった。


「亮は文系だったのね...クラス離れちゃったわね...」


 俺が新クラス名簿を眺めて色々考えていると、隣にいる咲が話しかけてきた。


「咲は理系だったのか。まあ仮に俺が理系選んでたとしてもお前との学力差考えたら多分同じクラスにはなれなかったさ」


「た、たしかにそうね...まあ決まってしまったことをこれ以上気にしても仕方ないわよね。とりあえず教室に向かいましょうか」


「ああ、そうだな」


 そして俺と咲は各々のクラスの教室へと向かった。



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-side 岬京香-


 登校した私は新クラスの名簿を確認し、新しい教室へと向かった。そして今は2年6組の教室の自分の席で机に突っ伏している。


 ちなみに今私のテンションは急降下中だ。そしてその理由は明白。




 はあ...田島くんとクラス離れちゃったな...



 彼とクラスが離れてしまうことはなんとなく分かっていたけれど、いざ実際に離れてしまうと想像以上に寂しかった。


 学校ではあまり喋ってないからそこまで寂しくなるとは思ってなかったのにな...


 田島くんと別のクラスになったことで今までどれだけ自分が学校で彼のことを目で追っていたのかに気づく。同じ教室に彼が居ないだけで物足りなさを感じる。



 ...って私どんだけ田島くんのこと好きなのよ。



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-side 田島亮-


「なあ翔。俺ら学年1個上がったよな?」


「ああ、そうだな」


「そんでもって最初の席配置は出席番号順のはずだよな?」


「ああ、そうだな」


「でも今の俺とお前と仁科の席配置って去年のクラスの時と全く変わってないよな?」


「ああ、そうだな」


「なんでなんだろうな?」


「ああ、そうだな」


「おいお前実は途中から俺の話聞いてなかっただろ!」


「ああ、そうだな」


「こいつ...」


 現在俺は教室の窓側の列の1番前の席に座っている。そして翔が俺の後ろの席に、仁科が俺の右隣の席に座っているという状況だ。去年と全く変わっていない。なぜなんだ。


 しかしこの疑問は次の瞬間解決することになる。


「よーし! ちゃんとクラス全員席に着いているみたいだな!  朝のHRを始めるぞー」


 2年3組の教室に見慣れた姿の美人教師が入ってきた。そう、彼女の名は柏木奈々。俺の嫁だ。


「2年3組を担任することになった柏木奈々だ。皆、これから1年間よろしくな!...っておい田島。お前なんで手を挙げてるんだよ。何かあるのか」


「お初にお目にかかります、柏木先生。突然で申し訳ないですが朝のHR前に1つ質問をしてもよろしいでしょうか」


「お前去年何回も私の補習受けただろ...なんで初対面設定なんだよ...」


「1つ質問をしてもよろしいでしょうか」


「人の話を聞け!!」


「なんとなく察してはいるんですけどなんで俺と翔と仁科は去年と同じ席配置なんですか?」


「そんなのお前たちが問題児だからに決まってるだろ」


「やっぱりそうっすか」


「柏木先生! 私は田島や新島と違って問題児なんかじゃありません! 納得いきません!」


 どうやら仁科は問題児扱いされたくないらしい。


「往生際が悪いぞ仁科。お前も俺と亮と同類だ」


「新島は黙ってろ!」


「いや、仁科。お前去年1回後ろの席に行った時に私の国語の授業中にずっと寝てたじゃないか。お前も十分問題児だ」


「うっ、それは...」


「ふっ、仁科ざまぁ」


「新島ほんとうるさい!!」


「奈々ちゃん先生、なんか1年6組ワールドになってきてて他のクラスメイトに申し訳ないのでさっさとHRを始めて下さい」


「元はと言えばお前がHRを邪魔してきたんだろ!   あと何回も言ってるけどその呼び方やめろ!」


 今年も奈々ちゃん先生が担任とか最高じゃねえか。席配置に多少文句はあるが、もう1年間この人が担任なら許す。


「お前たち3人と話すと本当に疲れるな...では今年度初のHRを始めるとするか...」


 そして柏木先生は俺たちに呆れながらHRを始めた。



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 朝のHRが終わった後、俺たちは始業式に出席するために体育館に向かった。


 そして特に問題もなく始業式を終えた俺は今空き教室に居る。今年度初の補習を受けるためだ。ちなみに担当は柏木先生である。


「はぁ...新学期初日に補習とかダリぃ...」


「おい...教師の目の前でそんなこと言うなよ...」


「お、相変わらず仁科練習頑張ってるなー...ファイト〜」


「窓から駅伝部の練習を覗いて現実逃避するのはやめなさい...」


「いや、真面目な話、俺って仁科が頑張ってる姿にいつも勇気づけられてるんですよ。あいつが部活頑張ってるなら俺も補習頑張らなきゃなーって」


「それはいいことだな」


「陰ながら俺はあいつのこと応援してるんですよ。真面目に頑張ってる奴は好きですから」


「ほう?それは仁科のことが女の子として好きだということか?」


「いや、そんなんじゃないですよ。それにあいつも多分俺のことは友達としてしか見てません」


「そんなものなのか...まあいい。そろそろ補習を始めようか」


「あ、先生すいません。今気づいたんですけど筆箱を教室に忘れてきたっぽいです」


「何やってんだよ。さっさと取ってきなさい」


「超特急で取って参ります」


 そして俺は筆箱を取りに2年3組の教室へと急いだ。



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 2年3組の教室に入ると隅の方で女子3人が話をしているのが見えた。おそらく放課後に新しいクラスメイト同士で親睦を深めているのだろう。邪魔しないようにさっさと退散しよう。


 そして俺は自分の席へ向かい、筆箱を回収した。よし、すぐに空き教室に戻ろう。


 しかしそう思って退出しようとした時、教室の隅から聞き捨てならない声が聞こえてきた。


「仁科さんってなんかウザくない?」


「あー、わかる! なんか自分が人気なのを鼻にかけてる感じがする!」


「そうそう! それそれ!」


 ...ほう? 俺がまだ教室に居るのにあいつの悪口言うとは良い度胸してるじゃねえか。今度仁科にチクってやる。もっと聞かせろ。


「なんか『人気者で足も速い私ってかわいい』とか思ってそう!」


「大した努力もしてなさそうなのにねー。才能あるのってやっぱずるいよねー」


 ......は? ふざけんなよ。今の言葉だけは絶対許せん。お前ら仁科がどれだけ努力してるのかなんて知らないだろ? なのになんでそんなこと言えるんだよ。




 後になって考えるとこの時の俺は冷静さを欠いていた。だから俺はこんな奴らのことなんて無視するべきだったのに教室の隅へ歩いていったりしたんだ。


 でもそれは仕方ないことだったと思う。なぜなら怒りで足が勝手に彼女たちの方に向かっていってしまったのだから。


 そして彼女たちに近づいた俺はついキレ気味でこう言ってしまった。






「ねえ、君たち。今してた仁科の話もう少し詳しく聞かせてくれない?」

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