交代物語

私は気が付くと町のはずれの広場に来ていました。

何も考えずにふらふらと広場を歩き回ってると、ポツンとベンチがありました。

一人寂しく誰かを待っているようにも見えたそのベンチには、一冊の本がありました。

その本に表紙には、何も書かれてありませんでした。

酷く日焼けしたその本の表紙に触れたとたん、私の意識は暗転しました。


疲れてしまいました、動くこともしんどいです。

私は諦めています。

誰もあの本を触る事なんてない。

私は、もう何年ここに居るのでしょう。

私は、何年追いかけられるのでしょう。

しんどいです。

私はあと何年殺され続けるのでしょうか。


気が付くと私はどこかの駅に居ました。

ここはどこなのでしょう。

何かに飲まれてしまったような変な感覚が私を襲います。

私はまた意識を手放しました。


私は今日、クラゲに殺されました。

私は昨日、ナメクジに殺されました。

ずっと、殺され続けてるか、逃げてるか。

私は寝ることも許されないのか。


私は真っ白な部屋で目を覚ましました。

周りをよく見まわしてみると、少し傷がついた壁や苔が生えたような石が落ちていたりと、少し古めな印象を受けました。


私は白い部屋で目覚めました。

恐らく、マグロに殺されたのでしょう。

青酸カリの香りが空気中に漂い、私を誘います。

白い部屋で見つからないように逃げることを再開します。


この部屋を歩けば歩くほどに、カビが生えたような本や、焦げた窓ガラスの破片などが見つかります。

何だか、異世界に飛ばされたような感覚に陥りました。

少し、現実感がなくなります。


私は凄く懐かしい匂いを嗅いだ気がします。

どこからしているのだろうか。

誰かが本を触ったのでしょうか?

だけど、そんなわけがない。

今まで何度淡い希望を抱き、絶望したのでしょう。

でも、なんとなくですが、今日は殺されずに済む気がします。


・・・、誰かがいるのかもしれない。

私はそう思いました。

どこかから足音の匂いがする。

分からない、けど、これで誰かに会えるかも。


誰かが近づいているのだろうか、音が聞こえる。

また私は殺されるのか。

もう嫌だけど、諦めの方が大きい。


誰かがいるのだろうか、音が聞こえる。

私は誰かに会えるかもと思っただけで、嬉しかった。

少しだけ、足を速めた。


私は、彼女に出会った。


私は、少女を見た。


・・・。


・・・。


交代の時間だ。

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