第126話【予期せぬ特訓② 錯覚だ】


 行くぞ。田中君.......。

 そう。俺はこのシーンなら何度も何度も彼と練習したんだ。

 そしてそこにいるのはその田中君。


 田中君だ。

 

 うん。普通にこなせばいい。

 田中くんにも最後には褒められたんだ。

 だから素人演技は素人演技でもさっきよりかは絶対に幾分かマシなはず。


 そう。絶対に生還するんだ。あの髭から。

 田中君と一緒に......。


 「.......。」


 うん。何としても絶対に........。

 形振りなんてかまっている暇は一つもない。


 よし......。

 行こう。普通だが全力だ。


 「ふぅ........。」


 まずはいつも通りに自らの制服の上をゆっくりと脱いでいく......。


 そして、そのまま半裸の状態でゆっくりと対象の傍へ。


 「え? ちょ、ま、間宮健人!?」


 集中。集中。


 この際は相手から見えない角度で近づいていくのがポイントだ。

 そして対象のすぐそばに到着した瞬間。


 「........。」

 ここだ!


 勢いよく覆いかぶさる!

 躊躇することなくそれはもう勢いよく!!


 「へ、へぁ?」


 そしてこれでもかと対象に顔を近づけて目の奥を覗き込む。

 ここは壁ドンと同じ要領で絶対に相手から目を離してはいけない。

 相手を目で殺すつもりで見つめ殺す。


 そして今度は優しく対象の頬に片手を添わせていき、髪を少しすくいあげる。

 

 「あっ......ん。」


 よし。


 この際に相手が今の様に少し声を漏らしたら最後に耳元で決め台詞だ。


 「もう我慢できねぇ。お前の全部が欲しい。なぁ沙織、お前の全てを俺にこのままくれよ。絶対に後悔はさせねぇから。天国に連れて行ってやるよ。」


 そして、よくわからないが対象の耳を優しく甘噛みし


 「あんっ......」


 最後はまたゆっくりと対象の目を見つめて


 「沙織、俺のものになれ。」


 よし......。


 これで後は数秒後にビンタをされてフィニッシュだ。


 久しぶりだったが、身体が覚えいたようだな......。


 うん。本当に後は.......

 

 来い。田中くん。

 後は耐えるだけ。


 「........」


 耐えるだけ........。


 って、ん?

 あれ、ビンタが来ない?

 た、田中くん?


 「え? ちょ、沙織! 嘘、き、気絶してる!?」


 「え?」

 気絶?


 って、あ、いや、え? 

 って、うわっ!ひ、柊さん!?


 「あれ? た、田中君は......!?」


 「あ、あんた何言ってるのっ? って、な、何よ今の神がかった演技......。何でいきなりそんなピンポイントで急に。って、そ、そんなことより沙織!大丈夫? 沙織!」


 あ、そ、そうだ.......。

 そうだった。確か俺は自己暗示で柊さんを田中君に........。


 「ふぇあ? あれ、私何を.......」


 いや、でも、え?

 って、目を覚ました!?


 「す、すまみせん!!!!」

 

 な、何かよくわからないけど、とりあえずこの状況は何かやばい。

 やばすぎる。

 とりあえず俺は急いで柊さんから距離をとろうと身体をすぐに立ちあがらせる。


 な、何だ。何だよ。この状況。

 でも、え? 目は覚ましてくれたけど、な、何で気絶?


 「.........。」


 って、よ、よく考えたら俺は本当に彼女にとんでもないことを......。

 や、やばい恥ずかしくて死にそう......。

 いやマジで。本当にやばい。

 でも、え? 本当に何で気絶?


 「え?」


 「あ、あんた恐ろしい男よ。こ、この私まであんたの演技で逝きそうになったじゃない!どういうことよ。一体どれだけの女と今まで.......。魔性、あんた魔性の男よ。」


 は?ま、魔性!?

 い、いきなりこの髭は何を。


 「つ、次は私よ!さあ間宮健人!来なさい。」


 え?

 って、な、何で気が付いたらもう仰向けに.......渋谷さん?


 「さぁ、来なさい!」


 い、いや、何でそんなに必死に......え?


 「アリサ、ちょっと待ちなさい。今日はここまでよ。」


 「は? 何で。先生何でですか。そんなの駄目です!絶対に駄目です!次は私の番です!嫌!終わりなんて絶対駄目!」


 「..........。」

 ん?


 「アリサ。わがままを言う子は嫌いよ。私はこの男の力を見くびっていたようだわ。さっきの沙織を見たでしょ。あなた達ではこの男の相手はまだ早い。」


 「は?」

 な、本当に何を言っているんだ。このおっさん。 

 それに何故か心なしか徐々にと俺の方へと近づいて......。


 「な、嫌です。柊さんだけずるいわ!私も彼に床ド「お黙りアリサ!!!!」


 ひっ.....

 こ、怖ぇよ。急に。な、何だよ。いや、ちょ


 あとずるい? ん?


 って、いや、やばいって、何だよ。その目は....おい、髭っ!


 「間宮くん。今夜は寝かさないわよ。私が本気であなたを教育してあげる。」


 って、う、嘘だろ。何でお前がう、上着を脱いで......。


 「い、嫌。嫌だ。」


 「おい!逃げるな!!!!!!!」


 「いや、無理無理無理」

 逃げるに決まってるだろ。何だよこれ。何だよこれ。


 「待て! プレイ坊主!」


 「だ、誰が待つか!!!!!」


 いや、ちょ、本当に何だよ。これ。

 やばいやばいやばいやばい。

 舌なめずりしたでっかいおっさんが俺を。俺を


 ど、どうにかして、どうにかして脱出。

 マジでやばい。


 「.......」


 そ、それにしても俺は柊さんに.......

 田中くんではなく、あの柊さんにあんなことを......


 くっ.......本当にやばい。

 穴が穴があれば今すぐにでも入りたい.......。

 こんな状況とはいえ、なんでまたあんなことを。

 本当に、本当に最近の俺は何かもう色々と......


 「止まりなさいぃーーー間宮くーーーーーん。」

 「ひぃーーーー」


 って、で、でもとりあえず今は、穴よりも出口ぃ! 


 やばいやばいやばいやばいやばいっ


 でも、本当に大丈夫か......柊さん。

 さっきからぼーっとある一点をみつめて上の空と言うか何と言うか.......。


 渋谷さんはものすごく機嫌が悪くなったと思ったらいつの間にかいなくなっちゃってるし......。。


 「........。」


 か、カオス.......。


 もう何が何だか。マジでわからない......。 

 本当に.......。

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