第105話【ヤバいよ。ヤバイよ。】


 なんでこうなった.......。


 先生に逢えたのは最高に嬉しかった。本当に一生の思い出になった。

 でも何でこうなった........。何が起こっている。


 昨日の俺は一体何を考えていた。いや、まじで。

 ちょっとこれはやばい。本当にやばい。


 そう言えば社長のおっさんに何か「表情が素晴らしい。やっぱりいいな間宮くんは。今日撮った写真を今後のうちの会社の若い者の参考にしたいから色々使ってもいいか」って褒められて、よくわからない書類にサインをしてしまった気が.......。

 先生がその代わりに次の話のネームを見せてくれるって言うから、参考に使うぐらいならいいかなって、その写真の中身も確認せずに軽い気持ちで......。


 今、思えば素人の俺の表情がプロの俳優の何の参考になるんだよ。

 クソすぎるだろ。昨日の俺.......どうなっている。

 

 まさかこんなことになるなんて。嘘だろ。おい。嘘だろ


 そもそも俺は何であんなことを.......。

 あ、そ、そうだ。思いだした。

 

 先生の漫画『ホワイトギャンブラー』がまさかのアニメ化になるって話を聞いて何か色々と舞い上がってしまって........。


 あぁ........やっちまった。今の俺ならあんなこと絶対に、絶対にしない。俺らしくなさすぎるだろ.......。

 

 あのアニメ化の話を聞いた後に、先生の奥さんに自分の作品のドラマ化にあたって色々とイメージしたいことがあるから間宮くんには色んなポーズをとって欲しいって言われて、何か漫画に出てくるような執事の服の様なものを着せられて、何かよくわからない人が何人か出てきて急に髪をいじられて、何かいつのまにか写真を撮られたんだ。


 俺、いくら先生の奥さんの頼みだからとは言え何でこんなポーズを......ありえないだろ。特にこれはありえないだろ。あの時の俺はマジでどうなっていた。完全にホワイトギャンブラーのアニメ化の報告や先生とのツーショット写真に心がトリップしてしまってるじゃねぇか。うわっ、嘘だろ。


 てか、本当になんだよこれ。何でこんなことになってんだよ。


 今、俺のスマホの画面には一枚の画像。いつにもましてtwitterの通知が激しいから何事かと思ったらこれだ。


 「.........。」

 もう言葉が出ない。


 そう。どこから流れてきたかはわからないが、俺の目には柊沙織に顎クイをして顔をこれでもかと近づける『俺』の姿。


 その画像の右下にはご丁寧に【あくまでこの画像はイメージです】の表記。

 しかも背景は何かしらないけど奥さんの漫画の作品を連想できる様な写真に合成されている。


 いや、参考って、え?そういう意味? え?


 そしてtwitterには今この瞬間にもコメントが続々と流れてきている。


 『キャーーーー!まさかの、まさかの王子が蓮様役!?やばい、やばい、やばすぎる!!!!!』

 『蓮様!蓮様!蓮様!これはまごうことなき蓮様!!!!!!!』

 『こんなの絶対に見る。何があってもドラマ見る。視聴率100%、視聴率100%!』

 『いい意味で不意打ちすぎる。誰も予想してなかった。ここで謎の王子が蓮様役なんて!』

 『やばい、やばい、興奮しすぎてリアルに身体が震えてきた。やばいよ。やばいよ。蓮様やばいよ!』


 「.........。」

 嘘だろ。いや、俺は蓮様でないぞ。俺があのドラマに出るわけではないぞ。


 く......あの後、すぐにまた髪をいじられて、家に帰ったら普通だったから気が付かなかったけど、俺、こんな髪型にされていたのか。ほんと嘘だろ。


 確かにこの画像の俺は先生の奥さんの原作漫画に出てくる蓮の髪型そのもの。


 【神宮司蓮】

 その人物は先生の奥さんの漫画に出てくる主人公のライバルだ。

 紳士で真面目な主人公とは対をなす、俺様系のイケメン執事。


 俺の性格とも全くもって似つかない男だ。うん。だからない。絶対ない。


 『こ、この顎クイの場面って学園で蓮様が「沙織、俺を専属執事にしろよ。俺ならお前のことを絶対に退屈させねぇぜ。」ってセリフと共に、静かに彼女の、く、唇を奪うシーンですよね!絶対そうですよね。そ、想像しただけで鼻血が。やばい。yばすぎます。」


 そ、そう言えば確かにそんなシーンがあった気が........。そう言えば偶然にもヒロインの名前も柊さんと同じで沙織。


 いや違うぞ。俺は関係ないぞ。あくまでこれはイメージだぞ。おい。イメージだぞ。参考だ。うん。本物の配役が決まるまでの参考。そうに違いない。

 そもそも俺は芸能人ではない。うん、ない。SNSを始めただけの一般人。


 って、いやいやいや。こっちもやばいって。やばいって。やばいって。

 何だよ本当にこれは。


 見てはいけないと思いながらも、どうしても我慢できずに9chをチェックすると最悪の想像が現実に.......。


 『こいつ、絶対にこ〇す。こ〇す。まじでやばいぞこれは』

 『う、嘘だろ。さ、さおりんが今度こそ完全にメスの顔じゃねぇか。さおりんのこんな表情、今までに見たことないぞ。何だよ。この蕩け顔は。こ〇す。田中絶対にこ〇す』

 『おい、このさおりんの顔チークや修正じゃねぇぞ。素で赤くなってるぞ。おい。ふざけんな田中アァァァァァァァァァァァ』

 『しかもこのすぐ後に原作では、キ、キスするらしいじゃねぇか。許さねえ。絶対に俺はそんなこと許さねぇぞ!!!!!』

 『俺達が大金はたいて数秒握手する裏で、こいつはいとも簡単にキス? ふざけんじゃねぇ!!!!』

 『おい特定班!何している。田中の情報はまだか。』


 いや、本当にやばいだろこれ。

 偽名でやっていて本当に良かった。何か田中くんには申し訳ないけど。

 全国に田中なんていっぱいいるし、そこは大丈夫だろう。そこは。


 でもこれ、本当に.......今あの姿で外にでたら俺は間違いなくこ〇されるぞ。

 いやいや、冗談じゃない。本当にやばいって。

 もうやばいしか頭に浮かんでこないって。やばいって。

 おい。


 って、うあっ

 ミキから電話だ。


 こんなの嫌な予感しかしない。よくわからないけどこのタイミングでの彼女からの電話は絶対にとっては駄目。何か鳥肌がやばい。


 って切れた。やばい。このパターン前にも。


 「おい!遥!絶対に一階にかかってきた電話は出るな!」


 「おにぃー!ミキちゃんから私のスマホに電話だよー!おにぃに代わってだってー!」


 あ........駄目だ。そっちか。手遅れだ。あ.........


 ってスマホを見るといつの間にか山本や渋谷さん、リンリンからも着信履歴。

 うわ、最近日本でも携帯を契約したアリスからも........。


 「おにぃー!何してんのー!はやく!ミキちゃん何かすごく機嫌悪いから怖いよおー!」


 あぁ.......もう本当にもうこの言葉しか口からでて来ない。



 「やばい.........。」


 何だこれ。おい。


 やばいよ。やばいよ。


 やばいよ........。


 本当に何が起こっている。

 もう全く意味がわからない.......。


――――――――――――――――――――気分転換に考えていたものが、書いていてそれなりに楽しかったのでとりあえず新作として不定期で投稿します。

もしよろしければ次回の「鈍感ぼっちくん」更新までの繋ぎにどうぞ。

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