第37話【修学旅行。ゴンドラ②】


 「ま、間宮健人、いい景色ね。」

 「あぁ......。」

 俺は今、隣のクラスの渋谷アリサと何故かゴンドラの中に二人っきり......。


 俺は彼女に気を使われてしまったのだろうか。

 はぁ.......情けない。

 自然といつも以上のため息が口からは漏れる。


 確かに景色的には悪くはないのだろうが、そんなこともあって全然俺の気持ちは高ぶらない。


 「そ、それと改めて言うわ。この前は悪かったわね。間宮健人。ちょっとばかり節度が足りなかったと思うわ。ごめんなさい。」

 

 あの彼女はそう言って俯いている。

 べ、別に大したことはないんだけどな。


 「いや、俺もちょっと言い方に難があったと思う。すまない。」

 実際に泣かせてしまったしな.....。


 「な、なら、正式に許してくれるってことで......いいのかしら。」

 許すも何も、俺は元からそこまで気にしてはいない。

 ただ、彼女の行動で俺に対するヘイトが溜まっていくのが辛かっただけ......。


「もちろんだ。こっちこそ泣かせてしまって悪かったな。」

 それに今日も今、結果としては精神的に彼女に助けてもらっている部分がある。

 まぁ、また榊たちからのヘイトはたまったけど。

 それを差し引いても今のこの状況に文句なんて言えない。


 「ふふ、良かった。これからはとりあえず節度は守るわね。」


 そして目の前の彼女は俺に向かって満面の笑み。


 「.......」


 まただ......。

 身体がおかしい.......。


 普段あまり笑顔を見せないクールな彼女が見せるその表情に......俺の身体はまた熱を帯びてしまう。


 「っていうか、ゴンドラに二人っきりって。わ、私と間宮健人、何かデートしているみたいね。」

 


 い、いきなり何を言い出すんだ。

 俺と渋谷さんが........そんなわけがないだろ。


 それに今度は何だ.....。そのしおらしい表情。

 また、らしくない彼女の一面が俺に向けられる......。


 熱い......。


 「ねぇ、でも間宮健人ってほんとに不思議よね。」

 今度はそう言って尚もしおらしい表情の彼女


 「何がだよ......」


 俺からしたら渋谷さんの方が不思議だ。

 なんで俺にそんなに構ってくる.......。

 住む世界が明らかに違うだろ.....。

 今日だって......。

 

 「ふふ、間宮健人は頭もかなり良いし、力も強い。それに顔もかっこいいのに....なんで全部隠しちゃうのかなって思ってね。」


 何を言っているんだろうか......。

 俺は別に何も隠してはいるつもりはない。

 かっこの悪い、ただのぼっちだろ......。


 やはりそんな発言をする彼女の方が不思議だろ......。


 「ふふ、何よその顔.......」

 そう言ってまた彼女は俺に微笑んでくる。


 それにしても今日の彼女はほんとによく笑う。

 正直、違和感しか感じない......。

 それと、俺はそんなに変な表情をしてしまっているのだろうか。


 「ねぇ、間宮健人。そっち側に行っていい?」

 そんなことを考えているとまた彼女の口が開かれる。


 どういう意味だ。

 

 そして.......何故かまた俺の心臓の鼓動も早くなってしまう。


「え......」

「まぁ、返事される前にもう来ちゃったけどね。ふふ、こういうところを改めないとまた間宮健人に嫌われちゃうのかしら。」


 そしてそう言って俺の隣に静かに座ってくる彼女。


 ど、どういう状況だ。これは。


 そ、それに、何でそんなに密着する。

 スペースならこっち側でもそれなりにあるだろ。 


 しかも、隣に座ってからの彼女は全然口を開かない。

 

 いつもなら、『あなたみたいな人が私と一緒に二人っきりのこの状況、すごく贅沢なことなのよ』なんて皮肉的な言葉を次々と吹っかけてくるところだろう。


 でも隣に座った彼女はやはり中々口を開かない。

 そして......何でそんなに頬を赤く染めている。 


 そんな彼女を見ているとさらに俺の身体は熱くなってしまう。

 今日の俺の身体は朝からほんとにおかしい......。

 あ、熱い......。


 さっきみたいにちょっとでいいから何か喋ってほしい......。


 なんなんだこの空気.......。


 俺の脳はさっきから彼女にかき乱されてしまっている。

 

 「ま、間宮健人もうすぐ到着ね。」

 「あぁ......」


 確かに展望台が見えてきた。


 そして俺達のゴンドラに向かって指をさして何かを言っている生徒も複数人見えてくる。


 そして、その光景に俺は数十分ぶりのため息。

 まぁ、そうなるよな。

 だがこればっかりはしかたない。

 彼女は何も悪くない......。友達がいない俺が悪い。


 そして、着いたな。

 俺たちは係員の人に再度ドアを開けてもらって展望台。


 「え、どういうことだよ渋谷さん。」

 「え、あいつとどういう関係?」

 「なんであんな奴と一緒に、帰りは俺と乗ろうよ。」


 あぁ、いつの間にか彼女は男達に囲まれて質問攻めにあっている。

 すまないな......。

 俺なんかに気を使ったばっかりに......。

 はぁ、やっぱりこうなったか。


 それと、また顔怖いな......。

 そこには、さっきまでの笑顔が嘘みたいに思えるような、いつものクールな表情の彼女......。


 「邪魔なんだけど。ってかあんた達誰......? ほんとに邪魔」

 

そして.......その発言に今も周囲の男達が氷ついている。

 ほんとに容赦ない。

 でも、これが......いつもの彼女だ。

 俺にはというか、男からすれば誰から見てもこっちの彼女の方がしっくりくるだろう。

 

 「って、え? 間宮健人どこ行ったの?」

 


 気がつけば、そう言いながら渋谷アリサが首をかしげている光景が目に入ってくるが......今、俺は俺で全然知らない男どもに陰に連れていかれて暴言を吐かれながら尋問をされている。

 そっちからはおそらく見えないだろう。


 それにしても.......

 はぁ.......囲まれるのは囲まれるでもここまで差が違うか。

 不遇だ......。


 けど、最近の彼女はやっぱりおかしいな。


 何だったんだ、あの表情......。

 思い出しただけでもほんとに身体がおかしくなる......。


 「テメェごときがなめてんのか。」

 「おい聞いてんのか、陰キャが。」


 そして聞いてない。


 ってかお前等もまじで誰だよ。


  って、あぁ隣のクラスの奴らか......。


 はぁ.......。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る