第36話【修学旅行。ゴンドラ①】


 な、なに? 天気がいいから展望台に登る?

 まじか......。

 また発生してしまった予定外の強制イベントに、俺は気分が極端に落ちる。


 正直、今は真昼間だ。

 展望台に登ったところで夜景が見れる訳でもないし、少しばかり良い景色が見れるだけで別に感動とかも何もないだろう......。

 

 ホテルに帰りたい.......。

 切実に。


 「おい、お前等。適当に固まって順番に前から乗っていけ。」


 そして、そんなことを考えている俺の耳にはそう先生の声が聞こえてくる。

 ちなみにうちのクラスの担任の声ではない。

 今、俺の周囲にいるのもクラスメイトだけではない。

 別のクラスの生徒もまじってもうごちゃまぜだ......。


 そして俺の目に映るのは展望台に向かう為のゴンドラリフトに乗っていく複数の生徒たち。

 先生のいう通りに仲の良いもの同士が4人ぐらいで順々に乗っていっているようだ。


 これ、俺はどうなるんだろうか......。

 そんなことを考えていると、次々と地上に残る周りの生徒達の数は減っていく。


 あ、アリス。

 俺の瞳には山本と一緒に楽しそうにゴンドラの中で笑いあう彼女が映り込む。

 よかったな.......。

 一緒に乗った他の女の子たちとも楽しそうにしているみたいだ。


 ただ、俺は人の心配をしている立ち場にはいない。

まぁ、なるようにしかならないが.......。


 そしていつの間にか俺の前にはもう人がいない。

 そう。次に来るゴンドラに俺は乗り込まなけれならない。

 ただし、後ろに並ぶ奴らとは全く面識がない上に.......彼らは彼らでもうグループができてしまっているようだ。


 知っている奴らもちらほらと見えはするが絶対に俺とは乗ってくれないだろう。

 それに、こっちだってあいつ等と一緒に乗りたくない。

 そしてそんなことを考えていると気がつけばゴンドラは目の前に。


 「はい、お次の方々乗ってください。」

 しかたがない。

 俺は係員の声に従って、しぶしぶ目の前に止まるゴンドラの中へと足を進める。


 「あれ、どなたか他は乗られませんか?」


 はぁ........予想通り。

 誰も乗ってこない。

 はぁ、ほんと予想通りの公開処刑。


 「ハッハッハ、ま、まじかよ間宮。一人でゴンドラって。どんだけ一人好きなんだよ。」

 「フ、誰か一緒にのってやれよ。俺は絶対嫌だけどな。」

 「し、修学旅行に来てまでゴ、ゴンドラに一人って、まじで笑わせんなよ。ククッ」


 そして一人でゴンドラに乗り込んで座っている俺の耳には、聞き慣れた男の悪口が次々と聞こえてくる......。

 まちがえようがない。榊たちの声.......。

 はぁ.......。

 俺はもうため息をつくしか他にない。


「い、いないみたいなんで.....閉めますね。」

 そう言って顔をひきつらせた係員さんがドアをもって俺に優しく微笑みかけてくる。

 

 悲しくなるからその同情の笑顔はやめてほしい.......。

 そして早く閉めてくれ.......。


 今も榊たちが俺の方に汚い笑顔を向けてくる光景が俺の目に。

 なんで俺がこんな目にあわなければならないんだろうか......。


 「待って、係員さん。私が乗ります。」

 

 ん......?

 嫌な声をこれ以上聴かないよう、心を無にして座っている俺の耳には唐突に聞いたことのある女性の声。

 その声に周囲もざわざわとどよめいている様......。


 「え?」

 な、なんで?


 き、気がつけば俺の目の前には渋谷アリサがしっかりと座っていた。

 ものすごく、高貴で上品な姿勢で.......。

 

「係員さん。早く閉めてくださるかしら?」


 彼女のその言葉と共に係員は俺達が乗っているゴンドラの扉をすばやく閉める。


 そしてゴンドラは展望台目指してゆっくりと出発。


 さっきと打って変わって榊が地上から俺のことを睨んでいるが......こ、ここは見えていないふりをするのが得策だろう。


 関わりたくない。


 でも何でだ.......

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