第23話【図書室2】


 「ね、ねぇ。この前に間宮くんから紹介してもらった本......読んだよ。」


 へぇ.......。

 ほんとに読んだのか。


 目の前には今、図書室に本を返しに来た山本サヤの姿。

 あぁ.....今日でちょうど一週間か。


 「か、かなり面白かった.......。」

 「そうか.......。それは良かった。」

 「う、うん.......」


 ピッ

 「...........................」

俺は貸し出していた本の裏面のバーコードを専用の機械で読み取り、彼女の本が無事に返却済になったことを確認する。


 「返却完了だ。もういいぞ」

 「え、あ.......うん。」


 うん。

 で何だ。なんでまだ俺の前に立っている?

 言葉の通り、もう返却作業は終わったぞ......。

 

 彼女は返却後もさっきから俺の前に突っ立って、何故か退室する素振りをみせない。

 かと言って.......喋りかけてくる素振りも見せてこないし、彼女は目の前からモジモジと視線をチラチラと俺に向けてくるだけ。

 

 一体何なんだ.......。


 用が済んだなら、とりあえず俺の前からはどいてほしい。

 でないと他の人達からの視線が痛いんだ......。

 まぁ、理由は間違いなく彼女の存在だろう......。


 山本......お前は図書室には似合わない。

 まずここに来るキャラじゃないだろ.......。

 現に記録を見たら、今回借りていた本が初貸し出しだったし。

 別に図書室に来るなという気持ちは全くないが、最近の彼女の行動は謎が多い......気がする。 


「ね、ねぇ。間宮くんは、れ、恋愛小説とかは読まないの?」

 「読まないな......。」

 俺が読んでいたら気持ち悪いだろ。

 というか、ようやく口を開いたと思ったらなんだその質問。

 まぁ、山本は確かにそういう本は好きそうだけど.......。


 「れ、恋愛とかには興味ないのかな?」

 あるわけないだろ......。

 俺はぼっちだぞ。

 中学までは俺にもモテたいという感情はあったが、今はそういう感情は全く心に湧いてこないな......。

 正直、俺も中学時代にあのあざとい山本に出会っていたらやばかったかもな......

 まぁ今はほんとに興味がないがな。


 「ないな。」


 「そ、そっか。ひ、人を好きになったりしたこともないのかな......?」

 それも昔にはある。

 ぼっちだけど俺も人間だぞ.......。


 「さぁ?」

 あると言ってさらによくわからない質問をされるのも嫌な俺はそう彼女に答える。


 「そっか、あのさ。か、仮にもしだけど......ま、間宮くんのことを好きな女の子がいてさ。こ、告白をされたらどうする?」

 

 何だその質問。

 される訳がないだろ.......。


 しかも彼女、何か顔が赤くなってるし。

 笑いで噴き出す寸前か.....?

 答えようによっては陰口のネタにされかねない。

 いや、されるだろう。


 「まず、されないから......。」

 この回答が正解だろう。

 むしろこれしかない。


 「そんなのわからないと......思うけどな。」

 わかるだろ。バカにしてんのか。


 「そんな女は現れないよ。絶対にな......。」

 何度も言うが、俺はぼっちだからな。


 というか、ほんとさっきから何なんだ。

 よくわからない。 

 

 「あの、探して欲しい本があるんですけど。」

 「あ、はい。」


 気が付けば俺は1年生と思われる男の子から声をかけられている。 


 「とりあえず、もういいだろ......」

 

そう彼女に言って俺は、男の子の欲しい本を探しに向かおうとする。


 「ご、ごめん、最後にあと一つだけ。」

  今、目の前にいる彼女はそういって真剣な顔。


 「何だ?」


 「あ、あの.......」


 ほんとに何だ。

 待っている人がいるので早く言って欲しい。

 

 「わ、私のことはまだ嫌いですか」

 

 「え?」


 「だ、だから、私のことはまだ嫌い?」


 突然、俺の目を真っすぐにみつめてくる彼女。

 

 「え?」


 尚も目の前の彼女は真剣な表情を崩さない。

 そして俺はこの前のことを思い出す。

 

 「いや、嫌いじゃない.......。あの時は俺も悪かった。」

 とりあえず、俺は思っていることをそのまま彼女に伝える。

 

 別に今、彼女に嫌悪感があるかと言われたら、もうないと思う。

 うん。


 むしろ俺ごときが少し行き過ぎた発言だった.......と思っている。

俺なんかに嫌いと言われたところで何とも思わないだろうと思ってたが、やはり人間、嫌いという言葉には敏感なのか。

 反省だ。


 「う、嬉しい......。」


 しかし、そう言って目の前の彼女は少し表情を緩ませたよう。


 「あのー?」

 「あ、すみません。今行きます」

 

 さっきの男の子から再度声をかけられた俺はすぐに彼が探している本がある棚へと向かう。


 「いるよ......。」

 

 そしてそう言って彼女が図書室から出て行ったような気がしたが、意味がよくわからない。


 何がいるんだ......。

 

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