第120話 サテュロスとサテュロス
先代のサテュロスがつまらないものでも見るかのようにこちらを"視る"。
不可視の魔弾、それを横に飛んで避ける。視線はすぐに背後へと向けられる。
危険を察知したサテュロスが前に出て剣を構え、何もない中空にそれを振るう。すると、空間が捻れて虹色の何かが割れた。
それを見た先代のサテュロスは目を剥いて驚いた。
「勇者でさえ避けるのでやっと、だがそこのお前は我の魔弾を裂いた。何故知っている！？」
サテュロスがニヤリと笑って答えた。
「あなたの事はよく知っている。知将の称号を持ちながら、武勇においても名を轟かせた歴代最強のサテュロス──シャイターン。未だ玉座に座りながらこちらを相手にするその態度は傲慢そのもの、あまりこちらを舐めない方がいい」
「……そうか、お前が今代のサテュロスか。見たところ、魔術戦士タイプで種族補正により多少強力な魔術が使える程度……。いかにも"サテュロス"らしいな」
シャイターンの物言いは暗に、後衛向きな取るに足らないサテュロス、そう言ってるように聞こえた。
実際、サテュロスを相手にするよりこのシャイターンという魔族を相手にする方がはるかに厳しい。
視界全てが射程でありながら、ノーモーションで攻撃を繰り出すシャイターンは間違いなく強敵だった。
俺はブーツに風を付与して攻撃のタイミングを計る。何かを察したサテュロスが話し掛けてきた。
「勇者タクマ、後衛の守りは任せて欲しい。前衛は攻撃に専念してくれ」
「わかった。じゃあ、行くぞ！」
"エリアルステップ"で距離を詰める。シャイターンは俺に向けて魔弾の雨を降らせた。
大丈夫、さっきサテュロスが斬っていた空間の歪み……恐らくそれが魔弾の本体であり、それを斬るか避ければこちらがダメージを負うことはない。
拓真は小刻みなステップで魔弾を避けていく。フェイントを織り交ぜつつ距離を詰める。
そして絶好の機会で斬りかかる。
──ガンッ！
シャイターンの手前で剣が止まった。見えない壁に斬りかかる……そんな感じだ。
「──去ねッ！」
シャイターンの左目の色が変わり、魔弾が放たれた。
「ぐはぁっ！」
至近距離で魔弾を受けた俺は遠くに吹き飛ばされる。シャイターンからの追撃はなく、吹き飛びながらも視線を向けると、雪奈が交戦を始めていた。
壁にぶつかったあと、キリキリと痛む腹を押さえながら立ち上がった。
くそっ！ マジで痛い。攻撃だけじゃなくて防御も出来るとか、反則だろ……。
だけど変だな、初手の威力から考えたら腹に穴が空いててもおかしくない。何でだ？
紋章術なしでの速度なら雪奈の方が上、それ故に数手早くシャイターンに攻撃を加えることが出来る。
刀がシャイターンを捉えようとした時、俺の時と同様に不可視の壁に阻まれる。だが、雪奈は俺とは出来が違う……追撃の魔弾に対して身体を回転させて避け、その勢いのまま更に斬りつけた。
「──ッ！？」
雪奈の刀がシャイターンの眉間を斬りつけた。この瞬間、シャイターンは初めて俺達の前で焦った表情を見せた。
勿論、俺も黙って見ているわけじゃない。真反対からすでに最高速度で迫っている。
"
触れたら爆発する剣をこちらから触れさせに行った。
──ドゴォォォォンッ！！
俺と雪奈は一度距離を取った。
「兄さん、油断しないで下さいね」
「わかってる。これくらいで終わる相手じゃないもんな」
雪奈と話していると、場の圧力が一気に膨れ上がるのを感じた。煙は霧散し、現れたのは額を押さえて玉座から立ち上がったシャイターンだった。
さて、取り敢えず俺の第一目標だった"玉座から引きずり出す"という目標を達成できた。
ここからは２合目、気を引き締めて相手しないとな。
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