第114話 北方からの使者

 あれから更に3週間、闘気石によるローラー作戦によって北方領域の7割を解放することができた。


 だが、何もかもが上手くいくわけもなく。変異種の魔物ブラッド種や灰色の尖兵との戦いで、解放軍は苦戦を強いられていた。


 ──ガンッ!


 尖兵の剣を弾いてバックステップ。


「お兄ちゃん、右からブラッド種が2体来てる!」


「わかってる! ライラ、正面頼む」


「うん、任せて! "エーテルストライク"!」


 ライラと交代してティアと右方向にいるブラッド種へと向かう。


「ガルルルルッ!」


 ブラッド・ワーウルフが絶妙なコンビネーションで攻撃を仕掛けてくる。まずは左右からのクロス!


 ──シャッ!


 交差点から体をずらすことで何とか避けることができた。


「へ、その程度、簡単に避けられ──ッ!?」


 ワーウルフ達は俺が避けたと同時に勢いを落とさずティアの方へ向かった。


「くッ! 間に合え!」


 敵の足を止めるため、進路上に土属性を付与。地面から次々と岩が飛び出した。


「グルルル……」


「敵の足が止まった。お兄ちゃん、行くよ!」


 ティアが俺の方へ両手を向けている。月下流麗・光条ムーンライト・グリューエンを撃つつもりだろう。


 別に仲違いというわけじゃない、立派な戦術の1つだ。


 地面に手をついて土属性を付与、俺の正面に石で出来た長方形の壁が出現する。

 ただの石壁じゃない、鏡面仕上げされた特注品だ。


 市販の鏡と何ら遜色ない出来栄え、更に表面は闘気でコーティングされてるから耐久性も向上しているのだ。


 ──ビュン!


 ワーウルフ達の脇を抜けた威力控え目なレーザーは特注の鏡へ直撃する。


 ワーウルフ達、笑ってるな。別に本気で外したわけじゃないさ、ほら……そろそろ死が近付いてくるぞ?


 闘気を用いた微妙な角度調整でレーザーは2つに分かれて反射され、ワーウルフを背後から貫いた。


 2体のブラッド・ワーウルフは膝をついたあと、そのまま倒れた。


「た、倒した? えへへ、やったね!」


「ああ、だけどブラッド種、かなり厄介だな」


「うん……まさかそのまま私を狙うなんて……ちょっと驚いちゃった」


 魔族が障気に汚染されると尖兵となり、魔物は赤いオーラを放つブラッド種へと変貌する。昨今の研究によると、その赤いオーラは魔物の血が蒸発しているからと言われているが、真相はわからない。


 尖兵は生前の技能を扱えるが、徒党を組むほどの知能は残されてはいない。そう考えると、攻撃優先順位を考えたり、コンビネーションを組むブラッド種の方が厄介かもしれない。


「兄さん、ご無事ですか?」


「ああ、雪奈も無事そうだな」


「私は何もないんですが……ナーシャさんが──」


「怪我をしたのか!?」


「いえ! ちょっとした掠り傷です。今は救護班の方で治療を受けてます」


「そうか、無事で良かった……にしても、敵の強さが未踏領域並みになってきたよな。Bランク冒険者辺りはそろそろ辛いかもしれない」


「……はい。1番被害がでてるのもBランクですし……ここからはS、Aランクを中心に進むしかないかと」


 魔物は長く生きるほどに強くなる。それ故に結界で覆われたこの地の魔物はレベルが高くなる傾向にある。


 せめてクレプスへの道が開通できれば、物資運搬から後方支援も楽になるというのに……。


「勇者タクマ殿はどちらに!?」


 考え事をしていると、唐突に声をかけられた。見たところ、左翼の最前線からの伝令兵だった。


「俺だけど、何かあったのか?」


「サテュロス殿が未解放のクレプスから手紙を受け取ったらしく、それについてお話があるとのこと!」


 罠か? いや、この状況で俺達を陥れることは出来ないはずだ。尖兵やブラッド種にはそもそも不可能だし、人類が俺達を阻むのはデメリットでしかない。


「どちらにしても行くしかないか……わかった、すぐに行くと伝えておいてくれ」


「──ハッ!」


 伝令の男はピシッと敬礼してサテュロスの元へ戻っていった。

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