第84話 明くる朝
朝日がカーテンの間から射し込んでる。両隣には誰もいないし、服もベッドもそういった痕跡が全くなかった。
まさか、夢だったのか!? もし、そうだったとしたら──。
夢の中の俺は快楽に負けて倫理を突破した。しかも途中から率先して
「まぁ、夢だったのなら大丈夫か」
俺はコップに水を汲み、それを一気に飲み干した。
──さて、着替えるか。
ガチャ
「あれ? 兄さん、起きたんですね」
雪奈がドアを開けて俺の部屋に入ってきた。戦闘用の装備に着替えてるところを見ると、すでに旅支度は済んでいるらしい。
「ああ、今起きたところだ」
「ほら、兄さん──顔洗って来て下さい。私はライラちゃんを起こしてきますから」
「俺も朝は弱い方だが、ライラはいつも遅刻するよな……」
それを聞いた雪奈は「まぁ、学生なので」と少し微笑んで出ていった。中等部というと、俺達の世界でいう"中学生"に相当する。
確か、高等部は冒険者コースを選ぶとか言ってたな。パーティ組んで集合時間に集まれないと、いつかハブられるぞ?
「俺の責任も多少はあるだろうし、少しずつでもこの旅で起きれるようにするかな……」
俺は手早く着替えて宿の水屋に向かった。
「あ、オズマ。早いな」
「おう、タクマか──って、その首どうした?」
タオルで頭をキュッ! と洗っていたオズマが驚いた表情で聞いてきた。
「首?」
言われるままに鏡で確認すると、首には無数の赤い斑点のようなものが出来ていた。触ってみても凸凹していないところから、虫刺されではないことはわかった。
「なんだよ、これ!」
鎖骨まで続いていたので襟口を開いて胸元を覗き見ると、上半身にそれがポツポツと出来ていた。
ん? 待てよ……もしかしてあれが原因か?
俺は原因について想起する。
1つのベッドの上で3人の脚は絡み合い、そして貪り合ったあの肉惑の夜。
ってことはあれは現実だったのか。
確信と同時に世界が明るく感じてきた。
「いやいや、気にしないでくれよオズマ君。あ、君は魔法使いだったかな?」
「なんだよ、急に……気持ちわりぃな! 近接ジョブだ、剣士だよ! 忘れたのか?」
「覚えてるとも、ただちょっと聞いてみたかっただけだ」
「お前、俺のが年上ってこと忘れてやがる……」
俺より縦も横も大きいオズマがどうしてか小さく見えてきた。いや、男として俺の方が優秀に見えてきたのだ。
「お、お兄ちゃん……恥ずかしいから、そういうの止めようよ……」
いつの間にか背後に立っていたティアは顔を赤くしている。
「よ、ティア、おはようさん。タクマがおかしいんだ……妹のお前さんが治しておけよ! じゃ、俺は先に行ってるぞ」
オズマは食堂に向かい、残された俺とティアはなんとも気恥ずかしい空気を感じていた。
「その……部屋にいなくて驚いたよ」
「お兄ちゃんが起きる前にシーツとかを取り替えてたの、ごめんね」
ティアは銀の髪を指で弄りながらもじもじしている。初体験という人生の一代イベントを過ぎたらテンションも時間と共に落ち着くわけで、少しの時間しか離れていないのに、久々の邂逅に感じてしまう。
「やっぱり、夢じゃないんだな?」
「うん、私達──恋人、なんだね」
ふと目についた。ティアの首には俺と同じ跡がある。このままではマズイと感じた俺はティアを優しく抱き寄せた。
「お兄ちゃん、もう集まる時間だから……ダメだよぉ」
「首に跡が残ってるから消すだけだ。"自作スキル・ヒーリングリリィ"」
光と治癒の印を混ぜ合わせて手を首に這わせていく。キスマークとは、唇で相手の身体に吸い付くことによって、吸引された部分が内出血を起こし、赤いリップのようなカラーの炎症の模様をつくること、それ故に回復スキルの有効範囲である。
「あはは! くすぐったいよ、お兄ちゃん」
「見えるところぐらいは消さないとな。我慢してくれよ?」
水屋には笑い声が響き渡り、他の客が入りづらいムードが出来上がっていた。それは雪奈が合流したことでさらに盛り上がり、宿の主人が注意しに来るまで続くのだった。
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