幕間・セツナ観察
私はティア、月の神子と言う職業であり、人種であり、ジョブだ。普通の人と違って月の涙が世界樹の葉に落ちてその
基本的に銀髪、赤い瞳の特徴だが私は何故か蒼い瞳だった。誕生した瞬間から人間でいう18歳の身体なので、赤ちゃんだった時期が存在しない。
勇者のサポート役として生み出されるのだけど、予備の神子も必要なので定期的に年数回雫は落ちる。量は大体20滴くらいか。
私達は神性を微量ながら有しているので、不老ではあるが不死ではない。生命力──お兄ちゃんの言葉に例えると"闘気"。それが完全に無くなると死体も残さず世界へと還り、また雫として生まれる日を待つことになる。
400年前から神子への印象が地に落ちてるようで、世界へと降り立った私達は基本的に奴隷になるか世界の端っこに集落を形成してひっそりと暮らしている。
そして私は運悪く、いや運良くハイデの街で奴隷となった。力無い奴隷商の元でたらい回しにされ、どこかの貴族が買い占めを始めたという噂が流れ始めた時に
正直言ってタッチの差とはこの事だと思う。もし数日遅れてたら、私も
お兄ちゃんと旅をして、紆余曲折の末にエードルンド邸で暮らすことになった。そこでスノウと名乗っていた人が実の妹、セツナお姉ちゃんだと言うことがわかった。
最初は嫌いだった。お兄ちゃんが悲しんでる時に近くにいなかったどころか、悲しみの元凶だったからだ。ただ、それだけではない──嫉妬の方が上だったかもしれない。
そう、私はお兄ちゃんが好きだ。添い寝をした時からか?それとも買ってくれた時からか?とにかくいつの間にか好きになっていた。
敵対し、どちらかが諦めるべきだろう。そう思っていたが、お兄ちゃんから"家族にする宣言"をされた翌日、セツナお姉ちゃんは私の部屋に現れて協力関係を提案してきた。
恋愛ごとでお兄ちゃんへ負荷をかけるのはよろしくない。悩み、剣が鈍り、その一瞬で命を落としては目も当てられない。
添い寝をしていた時期もあったから私にはわかる。あの時のお兄ちゃんは毎晩震えていた。普段を見ていたら想像できないが、精神的に脆い部分がある。
そも、相手が1人じゃなければいけない、なんて法もない。
話し合いの末──"妹協定が結ばれた"
それからはセツナお姉ちゃんのおかげでお兄ちゃんとの時間を作ってもらったりと、充実した毎日を送っている。
そのセツナお姉ちゃんは不思議な人だ。お兄ちゃんがお風呂に入ってる時、ロルフさんが男性のプレートから女性のプレートへと変えた事がある。
お兄ちゃんに恥をかかせるためのイタズラなのだろう。お風呂の準備をして現れたのはセツナお姉ちゃんだった。
ふと立ち止まり、考え込んだあとお姉ちゃんは清掃中のプレートに変えて中に入っていった。少し遅れてお兄ちゃんの悲鳴が聞こえ、服を着ながらお兄ちゃんは出ていった。
何故かわからないけど、お姉ちゃんはお兄ちゃんの居場所がわかってる気がした。
☆☆☆
そして昨日、エルフの里での宴会中、私がお兄ちゃんと二人っきりになれるように、他の面子を酔い潰すべく、セツナお姉ちゃんはお酒を注ぎまくっていた。
もちろんお酌のお返しをもらっているようだが、セツナお姉ちゃんは全く酔う気配がない。お兄ちゃんを見ると──体内に光と治癒の魔力が渦巻いてる。
うん、これはチートだ。ズルい。
会場の酒気はかなり空気中に充満しており、飲んでない私でさえも少しだけ頬が赤くなるほどだ。
全員が酔い潰れたあと、セツナお姉ちゃんは私達に与えられた借宿へ戻っていった。
帰り際のウィンクの意味するところは、今日は私の番という意味だ。
「ティア、みんな寝ちゃったな」
不意にお兄ちゃんに話し掛けられて我に返る。
「うん、見事に潰れてるね」
「雪奈とライラはどこいったんだろ」
「セツナお姉ちゃんは先に帰ったみたい、私見てた。ライラさんは修行に行くって言ってた」
「そっか……俺達も帰るか?」
意を決した私は、お兄ちゃんの手を包み込むように握って頼み事をする。
「うん!あ、そうだ。お願いがあるんだけど、久々に添い寝──しよ?」
お兄ちゃんは私の肩に手を回して足を
「きゃっ!」
いわゆる、お姫様抱っこと言うやつだ。
「いいよ、エリアルステップで帰ろう」
微笑み、そして飛ぶ。屋根から屋根へ飛び移るが、戦闘速度ではないので風が心地いい。
部屋に窓から入ると、大きなベッドに私を降ろした。そしてお兄ちゃんはそのまま隣で横になる。
私はお兄ちゃんの頭を抱えるようにして密着する。普通なら女の子が腕枕をされるシーンかもしれないけど、ハイデの街でやってた添い寝はこの形。
心臓の音を聞かせるようにしていると兄の吐息が寝息へと変わる。ホンの少しだけ襲われることを期待しちゃったのは、酒気のせいだと思う。
でもお兄ちゃんは手を出すことはない。この世界で起きてることを解決できるかもわからない。そしてそれがどのくらいかかるかもわからない。
妊娠したら戦えなくなるから、いや、目の届くところで守れないからこそ私の──私達のことを考えて手を出さないのだと思う。
そう、決してビビってるわけじゃないはず。だって、お兄ちゃんは頼りがいのある私の勇者様なのだから。
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