第52話 非常事態
パルデンスは都市としても破格の大きさを誇っており、それほどの大きさにも関わらず全方位にかけて魔術障壁が展開されている。故に、非常事態宣言などあり得なかった。
一方、パルデンス都市内にある大きな自然公園でテンと交戦した雪奈はナイン追撃を諦めてエードルンド邸へと向かっていた。道中、魔術師の集団が働き蟻のごとく正門に向かっているのが見えた。
雪奈は状況を確認するために声をかけてみる。
「あの~、ちょっと良いですか?私はルクスから来た旅人です。今の状況を教えてくれると助かるのですが……」
「ん?ああ、君は余所者か、さっきのサイレンは『緊急事態』を報せるサイレンなんだ。仲間に聞いた話では郊外に大量の尖兵が現れたらしいから、君は早く宿に帰りなさい」
「いえ、あの……一応冒険者もやっていまして。できればご一緒に──」
ドンッ!
「キャッ!」
雪奈が冒険者の身分を明かした途端に魔術師の男は顔色を変えて雪奈を突き飛ばした。
「冒険者の出る幕などない!ここは我ら魔術師の都市、卑しい冒険者が来る場所ではないッ!」
雪奈の返答を待たずして男は去っていった。スカートの埃を払って雪奈は屋根に跳んで空を見上げる。
空を覆う虹色のオーラが雪奈には魔術師達のプライドのように見えて1人呟いた。
「この都市はそういう都市なんですね……ロルフさんが人数集めに苦労するわけだ。こんな膜に守られてるから隙ができちゃうんですよ……」
先程の問答で両親のそれに近いものを感じ取った雪奈は、昔両親へ向けていた絶対零度の表情を浮かべていたのだった。
☆☆☆
屋根の上を飛んでいけばさっきのような思いはしなくて済む、雪奈は屋根の上を進んで行き、エードルンド邸の庭が見渡せる屋根の上で立ち止まった。庭から剣戟の音が聞こえた雪奈は腰を落として抜刀の構えに移る。そして見えたのは赤いオーラを放つ魔物、『ブラッドオーガ』だった。
「兄さんの真似をするわけではありませんが……再現スキル”
園田流抜刀術一之型『雪』を発動と同時にありったけを込めて踏み込み、魔物へと一太刀浴びせる。
傍からみたら銀色の流れ星が斜め上空から飛来したかに見えたことだろう。
シュッ!ブシャアアア!
「Gruāaaaaaaaaaaaaa!!」
「オズマさん、トドメお願いします」
「ま、任せろ、”パワースマッシュ”!!」
既に半分取れかけていた首がオズマの大剣により完全に断たれ、魔物はそのまま後ろへと倒れた。
「やっぱり再現スキルだと二段目に繋がりませんね……」
「助かったぜ、セツナの嬢ちゃん。にしても、今のは?いつも使ってるスキルに似てたが」
「スキルに一手間加えてみたのですが、その瞬間にスキル認定が外れてしまったようです。2段目に繋がらなくて焦りましたよ」
「……たくっ、兄妹揃って既存のスキルを使いたがらねえよな。ま、おかげでブラッドオーガを倒せたから良いんだけどよ」
雪奈は納刀せず、そのまま刀をオズマへと向けて言った。
「少し気安いですよオズマさん。
「うぐっ、あの時は金欠だったんだよ……」
「あなたは冒険者はどうとかよく言いますが、冒険者はそのクエストが怪しくないかきちんと調べてクエストを受けます。傭兵はどうでしょうか?レイプの片棒を担ぐような仕事に命かけられるのでしょう?」
「あ、う……すまない。生きててごめんなさい……」
「もういいです。それより、状況を説明してください」
「わ、わかった。実は──」
雪奈がテンを自然公園に誘導したあと、3体のブラッドオーガがパルデンス中央区から現れ周辺の家屋を襲い始めた。それと同時に"灰色の尖兵"が郊外に多数出現したため、ロルフ及びマルグレットの両名が郊外へ出撃、そしてブラッドオーガが何故中央区に現れたのかそれを調査するのに拓真とティアが当たり、残りはエードルンド邸の防衛に待機したとのこと。
雪奈も情報共有の為に
「へぇ~、なるほどな。しかし、なんでタクマじゃねえってわかったんだ?」
「匂い、ですね。薬品を使って変身してたようなのでこればっかりは誤魔化せません。次は、表情です。兄さんは笑うとき少しだけ
オズマはその後10分に渡って『違い』を聞かされ、我に返った雪奈が兄を追おうとしたので防衛組に雪奈も入ってるのを伝えるとそこからは一切喋らなくなり、納刀し、そして庭の中央で座り込んだ。
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