第19話 機械剣!!
武器屋のハゲ親父に頼んだ武器を取りに行った俺は驚愕することになる。
なんだ……これは……。
一見すると少し大きな長剣のようにも見える。だが明らかに接合部分が多いような気がするのだ。
「兄さん!これは男のロマンです!機械剣です!」
雪奈が興奮したかのように力説している。ハゲ親父はカウンターで頭を抱えて申し訳なさそうにしている。
「いいから説明してくれ……」
「はい!先程も言った通りこれは『機械剣』です。まず、この機械剣はマウントを解除することによって3本の剣へと分割できます。なので、3本の剣を必要に応じて分割して運用してもらうことになります!真ん中の剣だけ柱剣なので代えがありません、注意してくださいね。それと、左右の剣は市販のショートソードなので投擲しても大丈夫ですよ?」
「……え?あ……ああ、ウン……」
そう言うしかないだろう?説明の半分しか覚えられなかったぞ。
「坊主、これはお前さんにしか使えない剣だ。なぜかわかるか?これは剣のカテゴリーから外れちまったんだ。つまり剣士や騎士の加護が発揮されない。俺も剣じゃない剣を作らされるとは思わなかったが……大切に使ってくれよな?」
ハゲ親父の話しでは雪奈はわざと改良の余地を残して完成させたそうだ。つまり、いずれ続きをするつもりなのだろう……。
見た目だけは
「じゃ、ちょっくら試し斬りに行ってくるわ」
「待った!ちょうどいい敵がいるんだがやってみないか?」
「どんなやつだ?」
「東の廃墟にゴブリンが住み着いてな、しかもゴブリンキングもいるらしい……どうだ?」
「わかった!行ってみるよ」
こうして廃墟に辿り着くと、大量のゴブリンがいた。ハゲ親父の話しによると、すでにギルドに報告されてるそうだが、クエスト発行まで時間がかかってるようだ。ギルドとは言え、お役所仕事……発行までに様々な手続きが必要なのだろう。これが小説の若い主人公だったら「何を悠長な!」と激昂してただろうな。
「数が多いですね」
「ああ、半々でいくか」
俺の隣には雪奈がいる……それだけでなんでもできそうな気がしてくるな。
「ニャ~」
そうだったな、ルナもいたな。いつも助けてくれてありがとな!優しく頭を撫でてビスケットを食べさせる。
「さて、それじゃあいきますか!」
意気込んで突っ込もうとしたら、袖口を引っ張られた。
「あの……兄さん、無理だけはしないでください」
「大丈夫だよ。試し斬りだから危なくなったら撤退するからさ。雪奈も一緒に戦うんだろ?サポート、よろしくな!」
「はい!」
俺が右、雪奈が左、それぞれ担当して強襲を始めた。突然の奇襲にゴブリン達は右往左往している。
遮蔽物を利用してゴブリンを機械剣で真っ二つにする。……元の大剣よりも半分くらいの重さだな。恐らく、様々な部分で軽量化が施されているのだろう。これなら片手でも素早く振れる。
離れた位置にいるゴブリンを見つけたので大剣から1本マウントを解除して投げる。頭部に刺さり、落下したゴブリンから剣を回収すると雪奈の担当へと意識を向けてみた。
遠くから「グギャッ!」やら「フガッ!」やら聞こえるな。多分、雪奈は正面から堂々と無双しているのだろう。
俺はさすがに無双できるほど強くはないので、物陰からの奇襲に徹している。多分あの勢いなら8割くらい取られそうだな。
それから数体のゴブリンを倒した辺りでドガンッという音と共に正面の壁が壊れ、それが現れた。
突然壁を突き破って現れたそいつは十中八九『ゴブリンキング』だろう。通常のゴブリンは1mくらいだが、こいつは2mくらいでオーガ並みの横幅もある。
ゴブリンキングが手に持った大鉈で攻撃してくる。俺は機械剣で弾き、ゴブリンキングとの間に”石壁”を1枚作って距離をとった。
機械剣を地面に突き立てて2本の剣を取り出し壁を避けるように左右に投げた。
ゴブリンキングは石壁を一振りで破壊するが、視界が遮られていたためにブーメランのように左右から飛んできた剣に対処できなかった。右から飛んできた剣は首へ、左から飛んできた剣はアキレス腱を切断して拓真の元へと戻って行く。原理は簡単、単純に剣に対して風属性を付与したからだ。
「グギャギャギャギャ!」
激昂したゴブリンキングが大鉈を縦に振る。すると真空の刃が形成され、それは金切り声を上げながら拓真へと飛来した。
機械剣で防ぐが剣の重量を落としたのが仇となり、体が若干浮いてしまった。連続で放たれれば体勢を崩しかねない程の強烈な一撃。
……っちスキルか。なんでこの世界の女神様は魔物にも加護を与えるんだよ。創造物同士平等に扱ってるつもりなんかね……。
ゴブリンキングは俺の様子を見て何度も真空刃を繰り出す。機械剣で受ける度にザザっと体が後ろに押されていく。
このままじゃジリ貧だな。レイジングミストも風とは相性が悪い、スワンプカーニバルもこの距離じゃ届かないし、やつは腕だけでスキルを放っているから多少の
このままじゃいずれ体勢を崩されたときに畳み込まれる。どうすれば……ん?さっきから息が白いな……そうか!
あることに気付いた拓真はスキルを受けながら少しずつ移動を始めた。目的の場所に辿り着くと、効果のないレイジングミストを放った。
「今だ!」
ゴブリンキングはレイジングミストを真空刃で吹き飛ばすが、突如持っていた大鉈が腕ごと落ちた。
ゴブリンキングは何が起きたかわかっていない。実は雪奈は拓真がゴブリンキングと戦闘を始めたあたりで、すでに自分の担当を片付けていたのだ。
そして拓真の戦闘を目撃した雪奈はゆっくりと廃墟の瓦礫を利用して近づいていた。
雪奈が自身が潜んでいることを伝えるために、園田流抜刀術・雪の構えのまま冷気をひたすら放出した。口からでる息が白くなってることに気付いた拓真は、雪奈が攻撃しやすい位置に誘導した、というわけだ。
「雪奈助かった……ってうわッ!?」
雪奈が感極まったのか飛び付いてきた。
「兄さん、心配しましたよ?……気付いてくれて嬉しかったです……」
半分泣き顔のまま微笑んでいる。
「まだ放置しても良さそうだが、さっさと倒すか」
ゴブリンキングはまだ痛みにのたうち回ってるが俺達の殺気に気づき、今度は魔術を撃ってきた。
飛んできた炎の魔術を”水刃”で相殺し、走り行く雪奈を”暴風”で加速させ……。
”園田流抜刀術・雪月花”
繰り出される3連続スキルに抵抗虚しくゴブリンキングは四散した。
「兄さん!これでランク上がると思います!」
「そうだな。帰ったら美味しいものでも食べに行くか!」
俺達は夕暮れの中、笑い合いながら帰還した。
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