第17話 ブラッド種

 朝、俺と雪奈は中央都市国家ルクスから少し離れた迷いの森という場所にいた。迷いの森と言いながら、異世界人の尽力で正規ルートに沿って街頭が設置されている。

 ……異世界人様々だな。本当ならここらで雪奈とはぐれるとか定番のイベントが起きたはず。問題無いのは良いことだ。


「受けたクエストは『オーガ10体の討伐』……雪奈は戦ったことあるのか?」


「私もないですね~3m程の巨体と言う話しですが……いないですね」


 迷いの森の探索からすでに2時間経過しているが、魔物が1体も出てこない。


「兄さん、これを見てください。血に見えますがノア君の時の赤い結晶と同じものです」


「と言うことはブラッド種か……嫌な思い出しかないな……」


 きゃあぁぁぁぁぁ!という声がいきなり聞こえたので俺と雪奈はすぐに声の方へ向かった。

 到着すると、赤いオーガが若い女性に巨大なこん棒を叩きつけようと振りかぶってる最中だった。


”自作スキル・ホバークラフト”


”自作スキル・スワンプカーニバル”


 俺は自作スキルを使って高速で女性を掬い上げるように抱き抱えてそのまま安全地帯で降ろし、雪奈が応戦してるのですぐに戻ってブラッドオーガの足元を泥濘ぬかるみにした。

 体勢を崩した隙に、雪奈が”園田流抜刀術・雪月花”をすかさず放つ……こうして実際に見るのは久しぶりだな。

 『雪』で氷属性の抜刀攻撃、『月』で勢いそのままに月のような下からの斬りあげ、『花』で着地後に花弁の枚数だけほぼ同時斬擊を行う。


「やったか?」


「兄さん!それフラグです!」


 俺の立てたフラグはしっかりと回収されてしまった。赤いオーガは片腕が無くなっているが、元気そうにこちらを睨んでいる。

 さて、試しにオズマからもらった大剣を使ってみるか。身体強化を施し、自作スキル用にスロットを2つ残して、背中の大剣を抜いた。


「ちょっとコレ使ってみたいから下がっててくれるか?」


「危なくなったら助太刀します」


 雪奈が後方に下がったのを確認して赤いオーガの正面に立つ、これは間違いなくブラッド種……後ろで妹が見てるんだ。格好つけさせてくれよなッ!


 大振りの振り下ろし、敵はそれを裏拳で弾いてこん棒で追撃を仕掛けてくる。大剣の柄に乗ってジャンプし横から来るこん棒を避け、毒を付与した右手で顔面を殴って”下級魔術・暴風”で掴もうとする腕から逃げる。


「オマエ、ソンナニスキルツカッテマリョクモツノカ?」


「なっ!お前喋れるのか?……ジョブは言えないが、ジョブ特性で恐ろしく燃費がいいんだよ。俺からもいいか?お前みたいにたまに赤い魔物がいるけど、実際お前らって何?」


「ワレラハ、カミ『モルド』サマノチョウアイヲウケタソンザイ。アクシンフォルトゥナカラセカイヲカイホウスル、ジャマハサセンゾ!インジュツシ!」


 こん棒による攻撃を後方にジャンプして避け、雪奈の近くに着地した。

 すると、雪奈が呆れ顔のまま言った。


「兄さん、バレてますよ?ジョブ」


 雪奈が溜め息をついている。……仕方なくね?魔物が言葉話したら答えたくなるだろ?

 あっ、そうだ!通常のオーガのことも聞かないとな。


「この森にオーガの集団がいたはずだが知らないか?」


「オマエタチガカバッテイルオンナガタオシタ」


 これで一応クエストという意味では戦い続ける必要は無くなったが、こいつはやっぱり放置できないな。

 気絶してる女性を見る、服装から恐らく剣士だと思う。それでいて単騎で10体のオーガを倒すなんてかなりの実力者だろうな。


 俺は大剣を拾って風を付与する。こうすることで振りやすくなるのだ。

 それじゃ、行くとしますか!

 接近し、こん棒を避け、大剣で斬りつける。やっぱり戦いにくいな。この大剣、ルクスに戻ったら鍛冶屋で少し改良してもらお。


 敵の傷を見た限り、掠り傷にしかなってない。だが俺はただ遊んでる訳じゃない。


 赤いオーガが突如膝をついた。


「オマエ、ナニヲシタ!」


「俺に殴られたろ?その時に毒を付与したんだ。……口上もこれで終わりだ」


 大剣を雪奈に預けて俺は長剣を取り出す、そして最後の1合を始める。


”自作スキル・レイジングミスト”

”自作スキル・スワンプカーニバル”

”自作スキル・ホバークラフト”


 レイジングミストで水蒸気による霧を発生させて視界を遮り、スワンプカーニバルで敵の足元を泥濘に変え、ホバークラフトで高速移動。

 一瞬だけ見える俺にこん棒を振るが、当たらず。それによって生じた隙に斬りつける……これを繰り返すこと10分ほど。

 毒により虫の息となったブラッドオーガが、最期に「ヒキョウナ……」と呟いていたが、知ったことではない。

 俺はよく知っている。大人とは汚い生き方をするもんだ……18歳の時のような正々堂々と言った純朴な気持ちなんて、あの地獄の職場でとうの昔に擦りきれてる。


 自身にそんな言い訳を語りながら魔石を拾い、気絶してる女性を抱き抱えた。


「雪奈、帰ろうか」


「はい!帰ったらこの大剣を鍛冶屋に持っていきますよね?私に良い改造案があるので私もついていきますから!」


 今日も色々あったな……そういえば奴が言っていたモルドってのは恐らく俺たちが終末の獣と呼んでる存在だろう。

 ……はぁ。やっぱり終わってないんだろうな……まぁモルドって名前がわかっただけでも良しとするか。


 こうして俺達はルクスに帰還するのであった。


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今回の戦闘で拓真がレベル1up


園田 拓真 Level 14↑ ジョブ 印術師 印術スロット3


スキル 

付与印術 触れた物体に属性を付与する (毒・地・水・火・風)

補助印術 自身に補助バフ効果を付与する (身体強化・治癒)

紐帯印術エンゲージライン 黄緑→黄

パッシブスキル

剣術 C 印術 A



園田 雪奈 Level 23 ジョブ 剣士   


スキル 

園田流一之型 せつ 氷雪属性の斬撃を高速で放つ抜刀術

園田流二之型 月 雪に繋がる二段目のスキル・満月を模した斬撃

園田流三之型 花 三段目のスキル・花弁と同じ枚数のほぼ同時斬撃(5)

パッシブスキル 

剣術〈異〉A 刀装備時攻撃力up

被紐帯印術エンゲージライン 全能力弱up

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