第7話 情報収集

 ……ハァ、ハァ……


 俺達は走っていた。一緒に走ってるアルというギルドマスターは全く息を切らしてない。こいつマジで超人だろ……。


「あまり急いでもアレだからこの辺りで少し休憩しよう」


「ハァ……ハァ。助かる。あんたレベルいくつだ?」


「う~ん。こういうのって、会ったばかりの人に聞いちゃいけないんだよ?まぁいいけど、168だよ」


 ……バカだろ。確かアルフレッドの説明書には生涯を通して稼ぐことのできるレベルは100前後って書いてなかったか?なにやったんだよ……。


「すごいですね……私達まだ2なんですよ。オウルベアの相手もギリギリで……」


「えっ、それはそれで凄いと思うよ?ここって推奨レベル10だからね。というか君達、森の奥からきたよね?せめて7にならないと危ないよ?」


「道理で……。俺達、東方地方の小さな村出身でさ。変な魔術師集団に襲われて全滅寸前だったんだ。お遊びのつもりなのか俺と雪奈だけ強制転移させられちゃって……気付いたらこの森の奥地に……」


「そうか…!君達そんな過酷な……わかった!僕のギルドでは出来る限りの優遇することを誓おう!」


 (兄さん!そんな息するように嘘ついて良いんですか!?てかこのマスターチョロ!!)


「そう言えば君達はどういう関係?」


「夫婦だ」「兄妹です」


 シーン…………き、気まずい。拓真はアルに断りを入れて少し離れたところで雪奈と話し合いをした。


『ににに兄さん!夫婦ってなんですか!』

『待て!冗談だ!冗談ッ!』


 雪奈の剣から冷気が流れ始めたため、拓真は慌てて雪奈の手を握り押さえた。


『このマスターあんまりにもチョロいからちょっと言ってみたかっただけだ』

『もう……本当のこと言いますからね』


「あの~そろそろ良いかな?」


「ああ、話し合った結果……兄妹ということになった」


「話し合った結果って……まぁいいや。君達って結構一般常識に疎い感じがするね。途中休憩挟みながらでいいならある程度は教えるよ」


 俺達は休憩を途中途中で挟みながらこの世界の情報をアルから聞き出した。

 アルフレッドの説明書はもしかすると情報が古いかもしれないため生の情報が欲しかったのだ。



・この世界は2柱の神により作られ、悪神『終末の獣』が人間を害悪と考え、魔族を生み出し、人間を滅することで世界を浄化しようとした。当然もう一人の神は容認できず、救世神『フォルトゥナ』が激闘の末なんとか封印し、魔族を悪神の呪縛から解放した


・封印は200年毎に弱まるため、異世界から勇者を召喚して再封印を行っている。ただし、400年前に歴代最強の勇者により封印ではなく完全に消滅。以降勇者召喚は行われていない


・勇者が召喚された場合、必ずサポーターとして神子の一族の一人が現地人を代表して補助する。封印後は報酬として異世界に残るか、現世界に戻るか選択できる。ちなみに現世界に帰る場合、因果を少し弄れる


・最後の決戦後に突如友好関係にあった魔族が裏切り、勇者に北方都市の領土ごと封印された。以後封印の要を4つに分け、中央、東方、西方、南方の各領土で厳重に管理することとなった


 以上のことがアルさんとの会話でわかったことである。だが俺達にはある疑問が浮かんだ。


 本当に完全に消えたのか?もし消えたとするならなぜ俺達はここにいる?


「アルさん、その封印って一般人は見れないのか?」


「えっ?あんな何にもないところを見たいのかい?でもさすがに一般人は見れないよ。Bランク冒険者ならクエストに『封印の調査』って言うのがあるから見たいならBを目指すんだね。っと話してる間に着いちゃったね。また何か聞きたいことがあれば都市に戻ったときに聞くよ」


 恐らく、封印に何かが起きてるのかもしれないな。当面は冒険者ランクをBにして封印を目指すこととするか。


「これが俺達が見掛けた荷馬車なんだが……。ノアの荷馬車かわかる?」


「いや~流石に見ただけじゃわからないよ。彼が愛読してるアルフレッドの本が置いてあれば一発なんだけどね」


 ギクッ!!!!これか?この説明書なる本が……。仕方ない。返すか。


「アルさん?実は俺達食べ物がなくてここから少し貰ったんだ。その時にこの本も借りたんだが、これがそうか?」


「うん、当たり~~僕に預けてくれれば僕からノア君に返しておくよ」


「ああ、頼む。ところでアルさんってアルフレッドって著者のこと知ってるのか?」


「知ってるも何もついこの間まで生きてた600年前に来た異世界人だよ?面白い人でさ~自分の名前が嫌だからってアルフレッドに変えちゃったんだ。あっ!ちなみに僕の名前は彼の名前から貰ったんだ。僕の誇りさ!」 


「アルさん、ノア君の行方について他に手掛かりはないのでしょうか?」


「いや、あったよ。この一見すると血に見えるこれは実際は血じゃない。ブラッド種が攻撃を行うと、爪や角等に付着している結晶が攻撃を行った対象に付着するんだ。そしてこの森に変異体になる可能性のある個体は『オウルベア』だろうね。ここに来るまでに見かけなかったなら恐らく洞窟の向こうにいるはず」


「洞窟?アルさん、この森に洞窟はどのくらいあるんですか?」


「1つだけだよ。その洞窟には仕掛けがあってね。森の向こう側に行くとしたら空を飛ぶ以外はないね」


「ん?俺達今日の朝までその洞窟にいたけど中は普通に塞がってたぞ」


「簡単にいけないように仕掛けが時間経過で塞がるようにしてるんだよ」


 数時間前までいた洞窟にたどり着くとアルは洞窟の一番奥に行き、

 なるほど、一部の壁は幻覚仕様なのか。恐らくレバーのようなものが中にあるんだろう。

 ゴゴゴゴゴゴという音とともに壁が開けて外から入り込む光に目が眩んだ。


「アルさん、ノア君はどうしてこんなところに来たんですか?」


 雪奈の問いに先を行くアルは親指で外を指した。


「まぁ、この先を見ればその答えがわかると思うよ」


 洞窟を越えた先に一体何があるのだろうか?ここは地図の最南端……そうか!俺は……いや、ゲームをしたことがある男なら一度は考えたことがあるのではないだろうか?


 世界の果てはどうなっているのかってね……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る