52. お留守番

 のどかが、不安そうな顔で本殿とニオを交互に見る。


 もうそこに姫神さまの姿はない。


「はい」


 手をぱちんと打ち、のどかにこっちを見させる。


「じゃあ、ニオの魂祓えしてよっか。さっきやったばかりだけど、姫神さまも行っちゃったから念のためね。念のため」


「……そうだね」


 多分こういうときは何かしていないとダメだ。

 何もしていないと余計なことばっかり考えて、自分で自分の不安をふくれあがらせちゃう。


「ニオ、起きられる?」


 横になって眠っているニオに声をかける。


「……」


 ニオは呼びかけに反応しない。


「寝ちゃった?」


 のどかがニオの顔をのぞきこむ。


 と、その瞬間。


 掛ぶとんの下から黒いかすみが漏れだした。


「ニオ!」


 のどかが掛ぶとんを引っぺがす。


 隠れていた幽気がぶわっと湧きあがる。


 血を溶かした墨汁のようなかすみが、拝殿に広がっていく。


「……っ!」


 一瞬、気が遠くなった。


「しずか!」


 投げ寄こされた大幣を受けとる。


「のどか!」


 わたしに言われるまでもなく、のどかはもう幽気に守り刀の刃を立てていた。


 ニオにまとわりつく幽気のひもが御解しされていく。


 わたしはあたりに広がった幽気を、掃除するように御寧めしていく。


「これ、まずい……!」


 少しずつ、だけど確実に、御寧めが遅れていく。


 幽気が湧くのに追いついてない!


 と、いきなり拝殿の戸が開いた。


「みちるさん!」


 振りかえったわたしの目にうつったのは、幽気をまとう黄泉醜女よもつしこめの姿だった。

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