35. 大人の話
休憩室を出て、社務所の玄関で靴をはく。
「あ」
いきなりのどかが声をあげた。
「忘れてた。制服のこと、みちるさんに言ってない」
「まだ注文してなかったの? 今からだとけっこうギリギリかも」
と、ニオが心配そうに言う。
「始業式には間に合わせたいな。街まで来ることもあんまりないし、今日注文してもらったほうがいいね」
「わたし、みちるさんにお願いしていくる」
「僕も行くよ。ニオ、待ってて」
のどかと二人、いったん靴を脱いで休憩室のほうに戻る。
と、ふすまごしに声が聞こえた。
「――
「はい」
「そう意地を張るな」
「意地を張っているのは向こうです」
「まったく。伊吹の
「……わかってはいます。それでも――」
さっきまでとは打って変わって真剣なトーンだ。
廊下に立ったまま、のどかと視線で会話する。
伊吹って、たしかうちの親戚のだよね?
そうだね。いよいよって何がだろう?
いい話じゃなさそう。ところで大刀自って何?
と、いきなりふすまが開いた。
ふすまの向こうには、みちるさんが立っていた。
わたしたちがいるとは思わなかったらしく、みちるさんは目を大きくさせている。
「あんたたち今の話、」
「みちるさん、こないだニオの家で聞いたんだけど、僕らの行く
みちるさんの言葉をさえぎって、のどかが話す。
「……そういえば、そうね。あんたたちも買わないとね。ちょうど常装のために採寸はしたばかりだし、今日ついでに注文しとくわ」
「よし」
と、おじいちゃんが立ち上がる。
「よし、じゃない! お金は
「そんな勝手は許さんぞ。はなせ、制服はわしが買うのだ」
「財布をしまいなさい!」
大人たちがもみ合いを始めるのをよそに、のどかは「じゃあ、僕らは行ってきます」と言い残し、わたしの手を引いて歩きだした。
「ちょっと、のどか。気にならないの?」
「気にはなるけど、みちるさんは話してくれないよ」
「……ま、そうね。わたしたちを追い出してから話してたし」
ということで、わたしたちは大人の話を忘れて出かけることにした。
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