15. 神仕えの御役目

「その人形は何で神社に納められたの?」


 のどかの質問に、みちるさんは小さくうなり、それから答えた。


「……もう昔の話なんだけど、この人形の持ち主はね、都会の女の子だったの。病気でみずうみに静養に来ていてね、この人形をお友だちにしていたの。ある日、ひどい発作でね……。その子のご両親がうちに奉納したの。この人形が夜中にさわぐからって」


「……そっか」


 一人になっちゃって、遊んでほしかったんだね。


「その人形、どうするの? もうこれで魂鎮めは終わったんだよね?」


「今はしまっておいて、時が来たらまた御寧めするの」


「これで解決したわけじゃないんだ」


「ええ。今は鎮まっているけれど、またそのうち神気が集まるからね」


 そう言って、みちるさんは人形を手にとった。


「わたしたちは今たしかにこの子の荒御魂を鎮めた。それは神業であって、神さまの奇跡よ」


 みちるさんの手が、そっと人形の髪をすく。


「でも、それだけ。あくまでも鎮めただけ。思いは何も変わっていない。またそのうち神気はたまるし、この子はまた荒ぶりだす。そうしたらわたしたちはまた御役目を果たす」


 その手の動きは、何だかちょっと悲しそうだ。


「それって解決になってなくない? 神仕えの御役目って意味あるの?」


 思わず聞いてしまってから口をふさぐ。言っちゃいけないことだったかも。


「しずか。意味はあるわよ」


 でも、みちるさんは怒らなかった。


 それどころか、ほのかに笑みをうかべてさえいた。


「魂を鎮める。それが息長の神業の意味、わたしたちの御役目。わたしたち神仕えはね、何でもはできない。神通力は万能の超能力じゃない。できることは限られてる。でもね、できることには意味がある」


 そしてみちるさんは、そっと人形を木箱にしまった。


「わたしたちは、自分にできることを、しっかりやればいいの」

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