第53話 伝える術は見えず…遠く

 伝えたいと思えば、思うほどに…離れていく。

「嫌いなの?」

 そうだと言ってくれない哀れみが、嫌悪より辛いと知った。

 その憐みの言葉に縋る自身の心は漁ましく、その姿は醜悪な餓鬼と比喩される。


 潔白の死に装束を纏いてみても、その覚悟に準ずること叶わず。

 白は白のまま…血すら流せぬ小心には過ぎたものだと、今は黄ばんでゆくばかり。

 自身に白の意味を問う…それは無…あるいは一と、今は答える。


 0と1の世界は広く、その片隅に蹲る。

 ただ俯瞰的に世界を眺め、理だけを呟き続ける。

「何を知っているのか?」

 他人の弁を読み漁るだけの自分に知など感じぬというのに。


 ただ欲しかっただけ…

 いつもそうだった。

 騙し、盗み、手に入れたモノは、いつもそう…

 漠然として、ぼやけた欲求。


 虚構の世界は心地よく、されど時間は有限である。

 金で買える桃源郷で触れるものは全て幻、持ち帰ることは叶わぬ。


 現実の敷居を跨ぐことは畏れ…

 鏡を覗くに等しく、盲目で生きる術を欲す。


 虚無の世界は憧れ、結局、何も欲しない世界へ溶け込むことを望む。

 キミも僕を拒むのかい?


 拒絶は恐れ、恐れは怒りを産む…。

 だから僕は…全てを壊したくなる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る