第26話 のり弁
産まれて初めて『のり弁』を食べた。
深海魚のフライ、ちくわの天ぷら、きんぴら、たくわん、そして海苔。
粗末な弁当だ。
今まで、ほかほか弁当で僕が絶対に頼まないと決めていた弁当だ。
あまりに無様なような気がしてプライドが許さなかった。
僕の他に客は1人、「何にしましょうか?」
正直、頼む直前まで言葉に詰まっていた。
「のり弁…」
なんだか店員にも、その客にも笑われているような気がした。
なんだか泣きたいような気持になった。
数十秒で『のり弁』は出来上がる。
「順番変わります、のり弁のお客様」
粗末な弁当だ、すぐに出来るのだと思った。
300円を支払って、僕はすぐに店を出た。
家に帰って惨めな気持ちのまま『のり弁』を食べた。
貧しい食事は心を貧しくする。
今の僕に優しさなんてない。
ゴミ屋敷で『のり弁』を食べる。
僕は誰とも結婚しない。
僕は誰とも子供をつくらない。
自分の親を見て、子供の頃から決めていた。
バカは結婚してはいけない。
バカは親になってはいけない。
本当に子供の事を考えるなら、まず産まないという選択肢を設けることだ。
バカは、その周りの人を巻き込んで不幸を連鎖していく…
僕が自分の親から唯一学んだことだ。
僕は、この惨めさを忘れない。
僕は、この募る殺意を止めない。
バカは罪だ。
これは罰…産まれながらに下された罰。
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