心象華
桜雪
第1話 ほの暗い土の底から
知り合えたことに運命を感じるか…。
みんな感じると思う。
それは特別なことじゃないんだ…だって皆に訪れるのだからね。
僕だけに起こった奇跡なんかじゃない…。
僕は『彼女』に逢えた…。
愛されたいと思った。
愛したのだから…。
でも…今の僕に、そんな資格はない。
お金も無い…。
社会の底辺で生きるだけの僕に…。
ミミズは太陽を知っているのだろうか…。
土の底で蠢くだけの存在。
僕が、もっとも毛嫌いする生き物だ。
なんのために地面から出てくるんだろう。
陽に焼かれるだけ…あるいは雨に撃たれるだけ…。
暗い土の下で生きてればいいのに…。
醜悪な姿を晒すために…明るい場所に出てきてどうするんだい?
ミミズが僕に問いかける。
そう…僕は醜悪で嫌悪感を抱かせるだけのミミズだ。
でも僕は恋をした…。
彼女は、若く…美しく…僕の近づけるような存在じゃない。
実際…僕が彼女に出来ること…安い食事をさせること…他の誰かの所へ送ること。
それしか出来ない。
それしかしてやれない。
空しい…。
「今日はありがとう」
そんなメールの一文が、ひどく空しい。
彼女が逢っているのが…友達なのか…恋人なのか…それすら知らない。
聞く勇気も無い。
「送って」
断ればいい…。
でも断れない…。
逢いたいと思うから…。
逢えない日には、1日に何通もメールが届く…。
たわいもない話をやりとりする。
愛おしいと想う…。
そうして僕は…陽に焼かれに土から顔を出す。
盲目の顔…を…。
「アナタにとって、僕は…なんなんですか?」
聞きたい。
聞けないけど…。
愛されたいと願わなければ…こんな想い抱かなくていい…。
僕に、彼女を幸せに出来るだけの金があれば…。
「愛してる」
そう言えるのだろうか…。
彼女を想えば、思うほどに…「愛」なんて言えなくなる。
なぜ…他人を愛するほどに…愛を伝えられなくなるのだろう。
僕が弱いから…僕が醜いから…僕は…僕が…嫌いだから…。
僕と一緒に過ごしてほしい…。
そう言えたら…どんなに幸せなのだろう…。
彼女の家から…目的地まで…それが彼女と逢える時間。
運転席から助手席までの距離が、もっとも近くまで寄り添える距離。
今日も陽に焼かれに行く…。
剥き出しの身体に痛みを刻むために…。
金のいらないタクシー。
それが僕の価値。
それは僕の過ち。
愛されたいと願わなければ…。
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