グロームパニック

アンドレイ田中

第1話 紅 響子は襲われる。

 扉を開け、教室に入る。自分の与えられた席に着席し周りを見渡す。

 ほとんどの人は自分の席につき、スマホに目を落としている。

 一部、談笑の声も聞こえるが立っているせいか、話しているせいか、通常ならば目立たないのが、目立っている。

 わたしも当然の如く鞄からスマホを取り出し、あるアプリを開ける。

 そのアプリの名前は『グローム』今、中高生から絶大な支持を得ている中高生限定のチャット型出会い系アプリだ。

 その中で私は『kyouka』という名でアカウントを作り、たくさんの人とチャットをしている。

 その中でよく『ユウジ』という同い年の高校1年生と話している。

 その子は同じ京都に住んでいるらしく、今日の放課後に会う約束をしている。

「よーしお前ら回収するから携帯出せー」

 担任が教室に入ってきて、教壇から回収用の袋を出してきて私たちに告げる。

 担任が机を回って袋にスマホを入れさせる。

 そして私のところに回ってきた。

「紅。携帯出せ」

「家に忘れました」

「そうか」

 私の担任はかなりていとうで『わすれた』というだけで信じるのだ。

 そこから、1,2,3.4.5.6時限目と何の問題もなく進んで行き放課後になった。

 私は誰とも話すことなく教室を出た。

 待ち合わせ場所はJRの二条駅前に5時集合だ。そこから二人で河原町に行きユウジ君の行き付けの隠れ家喫茶店に行く予定だ。

 私のクラスのある3階から階段を下っていき少し長めの廊下を歩き、下駄箱に到着した。

 そこで私は自分のクラス1年7組を探した。入学してまだ1ヶ月しか経っていないので探すのに苦労した。

 約5分、中腰になりながら探しようやく見つかった。


「うー、腰いたいなあ」


 独り言を言いながら学校を後にした。

 カードを改札に当てて通り過ぎる。そしてプラットホームに立った。そこでも私はスマホを取り出した。

 ロック画面にはからのメッセが入っていた。


 ≪やっほーついに今日だね≫


 私もグロームを開き、メッセージに返信をした。


 ≪そうだねー。服装はどんな感じ?待ち合わせですぐに見つかるようにしたいんだけど…≫


 すると、すぐに返信が返ってきた。


 ≪えっとねー、青のジーパンに白のシャツだよ!そっちは?≫

 ≪私はねぇ、高校の制服だよ!≫

 ≪了解!またあとでねー≫

 ≪うん!またあとでー≫


 スマホを閉じて、ちょうど来た電車に乗り込んだ。ここから二条駅は一駅なのですぐに到着した。

 ここで電車を降りる人はかなり多く、まるで波のようだった。

 改札にカードをかざして通り過ぎた。映画館のあるほうの出口から出るとそれらしき人は見当たらなかった。時計に目をやると時間は5時ちょうどを指していた。

 あたりをちょろちょろに渡したり、うろうろしたりしたがそれらしい人は全然見当たらなかった。

 そうやって10分間過ごしていると突然、肩をトントンと叩かれた。振り向くとそこには青のジーパンに白のシャツをまとった男性が立っていた。その男性はただ一言。


「あの、kyokaさん…ですか?」

「はい。…もしかしてユウジさん…ですか?」

「はい!」

「やっと会えた!」

「すいません。待ち合わせわかりにくかったですね」

「まあ、会えたんですしいいじゃないですか。それじゃあいきましょう」

「はい」


 私たちは二人で並んで歩き出した。

歩きながら今日紹介してもらう喫茶店について聞いた。


「どんなところに連れて行ってくれるの?」

「ひ・み・つ」

「あははははははははははははは。かわいく言っても、かわいくないよ」

「そんなに笑わないでよ」



雑談をしながら私たちは歩みを進めた。

地下鉄に乗り河原町に向かった。その間も私たちの会話が途切れることはなかった。

そして、ついに河原町に到着した。


「んー。やっと到着したね」

「そうだね。それじゃあ行きましょうか」

「そうだね」


私はユウジくんが進む方向にあわせて歩いた。

10分、20分と歩き、人がまったく通らない先は行き止まりの薄暗い路地にたどり着いた。


「ユウジ君。ここどこ?道、迷ったの?」

「いや、迷ってないよ」


私の後ろに黒のワンボックスカーが路地の出入り口を塞ぐように停車した。

その中から黒ずくめの男が2人出てきた。

二人は私のほうに向かってきた。

ここで私は気づいた。人の第6感というものなのかと。

私はユウジ君の後ろに隠れた。けれども、ユウジ君は私を自分の影から私を放り出した。私は急いで立ち上がって逃げようとした。しかし、遅かった。立ち上がった瞬間、羽交い絞めされた。前からもう一人の男に布を鼻に当てられた。

どんどんと意識がなくなっていき、最後に視界に映ったのはユウジ君の爆笑する姿だった。私は人に裏切られ、襲われて、誘拐された。

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