21-2
「オソクナリマシタガ……モトユキサン、アリガトウゴザイマシタ」
「……何が?」
「アノヤクソクヲ、ハタシテイタダイタコト……」
「……君に言われなくても殺ってたさ」
ダラムクス新ダンジョン。あれからひと眠りした後に、俺はビルギットと二人だけで攻略をしに来ている。ディアやルルも連れてこようか迷ったが、今回は連れてこなかった。
……まぁ、余裕だ。死ぬことは無い。
二十階層。あの時、ディアと仮眠をとった
――そして、辿り着いた。
ミヤビの言った通り、無機質な白で統一された空間だった。ただ、ぶちあけた穴から差し込んでくる光だけでは、全体が見渡せなかった。
俺は天井に輝いていたクリスタルを、一欠けらもぎって手元へ持ってきた。小さな光だったが、懐中電灯の代わりにはなる。変わり種のお化け屋敷を探検している気分だった。まぁ、小脇にあるのは生首で、一番怖いんだけど。
「これか……?」
念力探知で、「濡れている」場所を探した。ミヤビの話から推測すると、ルルンタースは培養液の中に入っていたはずだから、それがまだ乾かずに残っているはずで、それを目指せば良かった。
ちょっとヌルヌルして気持ち悪かった。
二か所あった。違う部屋に。
液の少ない方に行ってみると、そのカプセルには「エルピス」と書かれていた。他のカプセルの中は乾ききっているのに対して、この中には緑色の液が少量残っている。それとつながっていただろうコンピュータの「残骸」もあった。
そのエルピスという生物が暴れたようで、その周辺がボッコボコに壊されている。
念力探知でそれらしき生物を探してみたが、ヒットはしなかった。恐らく討伐されたのだろう。ミヤビが話題に出さなかったくらいだし、あまり強くは無かったのかもしれない。
もう一つの方に行けば、明らかに最近いじられただろうカプセルがあった。近くに書いてあった文字を読むと「ルルンタース」と書かれている。ダラムクスの文字ではなく、ホルガーの家で見たパソコンの文字だ。
つまり、古代文明の文字。
メインコンピュータらしきものが置いてある。スマートなデスクトップパソコンのようだった。ホルガーの家で見たのとは少し違うタイプだったが、同じメーカーだろう。
起動させてみるとやはり「キーを入力」と言われた。
「ビルギット、これで、どうすればいいんだ?」
「データユソウヨウユウセンケーブルヲ、ミツケテクダサイ」
「……何かのケーブルを探せばいいんだな」
引き出しを開けて回ったが、ほとんどが空で、あったとしても空の薬品ビンばかり。最終的には、ほかのコンピュータで使われていたケーブルを抜き取って使うことにした。
「これでいいか?」
「エエ、バッチリデス。デハ、ソレヲコンピュータニツナイデクダサイ」
「……こうだな」
USB端子よりか、少しばかり大きい端子を差し込んだ。ところがビルギットには、反対側の端子を差し込む穴が無かった。髪の毛の中を探してみたが、見つからない。
「ケヅクロイデスカ?」
「違ぇよ。これをどこに差せばいいのか分からなかったんだ」
「アア、クワエサセテクダサイ。ソレデ、ダイジョウブデス」
「……マジ?」
ビルギットの口の中に端子を突っ込んだ。傍から見れば、凄くバカっぽい。
だが次の瞬間、彼女の瞳の色が緑から青色に変わり、俺を見ていたはずのそれが、一気に「機械」になった。
やっぱり不気味っ。
「……カイセキチュウ」
「……」
「……カイセキチュウ」
「……」
「……カイセ……アノ、コレ、イッタホウガイイデスカ?」
「いや、言わなくていいよ」
ビルギットは黙って解析作業を行った。数十秒後に「オワリマシタ」と言って、端子を吐き出した。ちゃんと唾液が表現されていたから、本当にすごいと思う。今は要らないけど。
「ア、フカナイトコワレルノデ、オネガイシマス」
「……」
「アノ、キタナクナイノデ……ソンナメヲシナイデクダサイ。キズツキマス」
「……いや、別に汚いとは思ってないけどよ」
今度いつ使うかもわからないケーブルを軽く拭き、近くの引き出しにしまった。そして画面を見ると、やはり俺たちが普段使っているようなパソコンのデスクトップが表示されている。ホルガーのものと同様、がらんとしていた。
エクスプローラーを覗いてみるが、特に目立つようなファイルは無い。文書ファイルがいくつかあるが、バグログのようなものばかりで読めなかった。
ただ、確かに、ルルンタースに関する記述を見つけた。
「
◎意識神ウォルンタース「No.3ルルンタース」
○移植組織(全て胚式移植)
・脊髄
・眼球
・腎臓
○期待効果
・No.1ウォルンティクスやNo.2ガルンタースとは違い、脳組織を移植していないため、我々の意思に従順な生物に仕上げられることが期待される。
・脊髄組織を移植したため、特殊な血液及び体液を生み出すことが期待される。
・胚の段階から組織移植を開始したため、今のところ拒絶反応が起きていない。今後起こる可能性も低い。
○特徴
・色素の先天的欠損
……No.1やNo.2に見られなかった特徴の為、媒体人間の方の欠損だと考えられる。引用組織に被害が出る恐れがあるため、移植手術を検討。現在医療班に依頼済み。日程未定。
・体の不完全成長
……書き込み時の経過年数は三年であり、色素欠損の手術を検討したものの、医療班の混雑・全滅が相次いだため、リーダー「アルド」の命令により、二十歳の体に成長させるホルモンを打ち込んだ。ところが、十三歳~十五歳程度に成長がとどまった。胚式移植時の不具合で、成長ホルモンを上手く受け取れなかったことが原因だと考えられる。
・比較的健康
……色素欠損という大きな障害があるが、それ以外は至って健康である。だが、先に何があるか分からないので、私は別個体に移植すべきであると考える。その際ルルンタースは死亡するが、我々の勝利のためには尊い犠牲だ。
第十地下研究所 研究員No.1014 ハロルド
」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。