6-1 「命無き家」
朝食を食べ終え、ルベルが学校に、ミヤビが夜の宴に備えて寝ている頃、俺は「ホルガー」と呼ばれていた人物の家に向かっている。
ディアも一緒だ。暇だからという簡単な理由で。
「ビルギット……か」
「何か思い出す節が?」
「いや、無いな。ただ、歩き回る金属が、今もあることに驚いたな」
「ディアのその、『歩き回る金属』は、限りなく人に近い形をしていたのか?」
「そういうものもあったし、そうでないものもあったな。ほとんど忘れてしまってるから、よく思い出せんがな」
「……」
ディアケイレス、不思議なドラゴンだ。
彼女の話から推測すると、二千年前は、今よりももっと高度な、下手すると元居た俺の世界よりも高度な文明があったことになる。所謂、古代文明。だが、それは彼女の手によって壊されたはずだった。ディアだけでなく、他の「大厄災」というものでも、文明が壊されているはずだ。にもかかわらず、ビルギットが存在する。
恐怖と好奇心、どちらも感じている。自分は今から、何か凄いことを知ろうとしているのではないか、という子供じみた感覚までも浮かんでくる。
それから俺たちは、森の中を進み続けた。少しだけ傾斜になっていて、普通の人が歩く分には疲れてしまうだろう。走ったり、飛んで行ったりしてもいいが、そう急いだって意味はない。それなら、景色を楽しみながらゆったり進んでいくのが良いだろうとも思う。
そして、到着した。
木々が開けて、広場になっている。目の前にはどこまでも続く水平線がある。どうやらここは崖のようで、結構な高さがある。
右手には、白塗りで赤い屋根の小さな家があった。花壇には、名前は分からなかったが、綺麗な花が咲いている。周辺は整備されているようだ。人一人が住んでいるか、それとも老夫婦が住んでいそうな、そんな雰囲気。ぽつんという言葉が丁度良い。
「……妙な気配があるな」
「へぇ。アンドロイドの気配までわかるのか、ディア」
「……多分、これは魔石か? 生き物の魔力ではないな」
「魔石……それがあいつの動力源か」
インターホンはなかった。ビルギットを作れるくらいの技術者の家なのだから、機械仕掛けの無機質な家なのかと思ったら、そうでもない。
軽くノックをしてみる。ほどなくして、ビルギットが扉を開け、軽く頭を下げた。
「こんにちは。ホルガーさんに用ですか?」
「えぇ、まぁ」
「すみません。今、ホルガーさんは忙しいようなので、後にしていただけますか?」
忙しい……?
死んだはずではなかったのか?
「ホルガーさんの仕事のことで用がありまして。彼、言ってませんでした? 僕がここに来ること」
「あぁ、そうでしたか。失礼いたしました。では、お入りください」
「はい」
適当な嘘でも通用するんだな。
とりあえず、家に入ってみると、外観から想像できる通り、小奇麗な空間だった。木でできているからか、暖かな空間。食卓には、手の付けられていない一人前の朝食が置いてあった。
「ホルガーさんはこちらに」
ビルギットに、右奥にある部屋に案内された。そして、
十秒くらい時が流れたが、ビルギットは「忙しいようです。直接お話しください」と言って、ドアを開け、俺らをその部屋の中へ入れた。そして、そそくさと扉を閉めてどこかへ行ってしまった。
異様な空間に、俺は背筋が凍るような感覚がした。
その部屋もまた、同様に掃除が行き届いていた。たくさんの本棚があり、それぞれは機械工学か魔法に関する本だった。
だが……ホルガーらしき
「……」
「……」
俺とディアは、その光景に少しだけ戸惑った。しんとする部屋の中、先に声を出したのはディアだった。
「あの骨が、ホルガーか?」
「……多分、な」
ずいぶん前に白骨化したようだった。それに、特に嫌な臭いはしなかった。
だが、明らかに、死んだときの腐った肉汁のシミが机(それとノート)、椅子、床にあった。それ以外は特に何もない。ウジ虫は湧いていないし、木が腐っている様子もない。
おそらく、腐った肉汁はビルギットによって拭き取られたのだろう。部屋の掃除と同じように。
ということは、ビルギットは、
「なぁ、モトユキ。吾輩、あいつの言っていることが理解できなかったんだが、もしかしてこのペンダント、壊れてしまったか?」
「いや、確か、それは意識をつなぐ魔法が込められていたはずだ。だから、意識のないモノとの会話は……できない」
「……なるほどな」
「ともかく、調べてみよう」
「……吾輩暇だな」
「そうだな」
ディアは結局暇になるのか。
意識疎通の魔法具だけでなく、識字ができるようになる魔法具も欲しいな。また別のところへ行ったときに、探してみることにしよう。
さて、どの本から開こうか。
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