3-1 「厄災の予兆」
ミヤビと俺が出発してから、ものの十分程度で「ギルド」という場所に来た。外観は、大きな白い石造りの建物で、ダラムクス一番の施設だということも納得できる。そして、日本では絶対に見られないだろう、凶器を持った屈強な男たち。体中に傷があり、雑に鍛えられた筋肉が装備の上からでも確認できる。
……本当にこいつらよりも強いんですかね、ミヤビさん。
「ここだよー」
「……俺らすっごい浮いてないか?」
「まぁ、そうだね。やっぱり男の人のほうが多いし、もっきゅんみたいな子供が来るのも珍しいねぇ」
「……」
「何? ビビってるの?」
「……否定はしない」
土木のオッサンたちよりもガタイがいい。
ちょっと気に食わない発言をしただけで、流血沙汰になりそうなところだ。
「大丈夫、皆チ〇コは小さいから!」
「……何の話だ」
ミヤビは、いつも通り余裕綽々の表情でギルドに入る。
彼女の話によると、ここに魔道具に詳しい旧友がいるらしい。その人に、ディアの魔道具の作成とエミーの魔導書の調査を頼むそうだ。言語読解自体の知識は少ないけど、ギルドの中でも結構な地位があって、それ系統の友達も多いそうなので、任せておけばいいんだとか。
中に入ると、意外にも綺麗な場所だった。いや、意外ってのは失礼か。ともかく、居酒屋に近い雰囲気を感じる。壁と天井は木造、床は変わらず石造り。橙色の照明が暖かく照らしてくれている。
そこには、昼間から酒を飲む中年の男がちらほら。恐らく「クエスト終わり」なんだろう。
「なんだろう……ファンタジーって感じがする」
「だよねー、ル○ーダの酒場っぽいよね」
「ミヤビはいつもここで依頼を受けているのか?」
「そうだけど、毎日じゃないよ。やっぱりどうしても大きな依頼になると、私でも数日かかることがあるから、休んだり仕事に出たりだね。基本的には、ギルドから直々に依頼が来るね」
「へえ」
広い場所だ。様々な人間の声が聞こえる。
悪い場所ではないのだが、あまり長居はしたくない。たばこのにおいがする場所はあまり好きじゃないし、身長のでかい奴が多すぎる。ただでさえチビで子供な俺は、どうにも居心地が悪い。
「やあジョン」
「お、アネゴ! 今回は出てくるの早いな……ってあれ? 誰だそのガキ。アネゴまさか……!?」
「違う違う誘拐でもないし、保護でもない」
「えぇ!? じゃあなんだよ?」
「友達」
「と、友達……アネゴの友達つったら」
「『セ』の方じゃないよ?」
「良かったぁ……流石に性犯罪者とは酒が飲めねぇよ」
「どこまで変態だと思われてるの、私」
「そりゃあ、ね? 食いしん坊だから。いろいろ」
「あんたらの相手がいないから、付き合ってあげてんだよーだ」
「はいはいどうもどうもありがとな」
スキンヘッドの強面冒険者。ジョンと呼ばれた彼は、ミヤビと楽しそうに話している。典型的なチンピラ顔だが、悪い奴ではなさそうだ。どうやらいい感じに酔っぱらっているらしい。頭まで赤くなっているから、茹でられたタコみたいだ。
「お、なんだ? アネゴじゃねぇか! ……お? 抱くには、流石に小さすぎやしねぇか?」
「
「今はアネゴ一筋だぜ、ハハハ」
「包茎だからなぁ……」
「うぐ……手厳しいねぇ」
こちらも典型的強面筋肉男。体中に傷があって、幾千もの戦場を駆け巡ってきたことが分かる。普通にしておけばハンサムな奴なのに、ミヤビのおかげで、ロリコンで包茎ということが分かってしまった。この世でこれ以上要らない情報があるだろうか。
……ミヤビさん、ビッチだったんですね。
人の性事情に無闇に首を突っ込むのは良くないとは思っているが、今のミヤビは母親の身。あとで気を付けるように言っとかないとな。ルベルも年頃だ。母親のそういうところには特に敏感になるし。
「お、アネゴ! 久しぶり!」
「アネゴー! こっちで飲もうぜ!」
どうやら、こいつはかなり顔が広いらしい。そこら中のの冒険者が「アネゴ」と声をかけている。どう考えてもミヤビの方が年下なのに、そう呼ぶってことはそれだけノリの良い集団なのだろうか。それとも顔がいかついだけで、思ったよりも歳いってないとか?
……会話の内容が汚ぇ。大体が下ネタだ。
「あ、あの……ミヤビさんですか!?」
「ん? どなた?」
「あ、えと、今日から冒険者になりました、アーリーンです! よろしくお願いします!」
「よろしくねー」
ミヤビはにこりと笑って、アーリーンという女性と握手をした。
数少ない女性冒険者の間でも、人気があるんだな。
そんなこんなでやっと、魔法具技師、通称「エンチャンター」と呼ばれる人物の店までたどり着いた。俺が実際に話をしていたわけではないが、どっと疲れた。酔っぱらいの相手は、こっちの世界でもあっちの世界でも面倒なんだな。
「休日だから、
「だから
さっきの場所とは打って変わって、静かな場所だ。
ここにいる冒険者は皆、真面目そうに見える。
「あれ? 冒険者の休日ってどういうこと? クエストって、全部ギルドから直々に頼まれて、義務的にやるのか?」
「うーん、そういうクエストもあれば、自分から受けるクエストもあるよ。休日といっても、『皆仕事を休もう!』的な雰囲気だけだね。真面目な人は、今日もしっかり働いてるよ」
「……へぇ。だとしたらなんで、装備をしてきたんだ?」
「警備の仕事が午後からあるの。町中をぶらぶら散歩するだけなんだけどね」
ミヤビは慣れたように受付嬢に話しかけると、彼女は一礼をして奥の方へ歩いていった。ドアを開いたところから、鉄を叩く音が聞こえてきた。
しばらくすると受付嬢が戻ってきて、こちらを手招きした。
「あー、あれだね。自分でこっち来るのが面倒なんだ」
「……そうなのか」
大体、どんな人物か想像がついた。
ジョンやニックと同じような、筋肉の凄い中年男性。武器鍛冶なのに、言語に関しての知識もある。「変人」、つまりはそういうことだ。よくある頑固者でなければいいのだが。俺が働いていた時には、仕事ができるおっさんはめちゃくちゃ頑固っていう法則があったから……。
そんなことを考えながら、俺らは奥の部屋へ案内された。
鉄を叩く音がより大きくなっている。建物の外壁とは違う種類の石の部屋。こっちのほうがより黒く、冷たい感じがする。音がほとんど反射しているから、かなり堅い素材でできているようだ。
そして、鍛冶台に男がいた。
赤く熱された剣を、汗を流しながら熱心に叩いている。想像通り、筋肉質な体で、髭をいくらかこさえた中年の男。彼が見つめるのはただ、目の前の刃物のみ。
……頑固そうだなぁ。
「あ、ミヤビさん。こんにちは」
彼は低い声でそう言った。
あれ? 物腰低くない?
「頑張れよー、バート」
「……ん? この人じゃないのか?」
「まぁ、
「ミヤビ様。こちらへ」
俺が首をかしげていると、受付嬢にさらに奥の部屋へ案内された。
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