1-4
港町ダラムクス。
門から一本、石造りの大通りが続いている。さらにその奥には海があって、今は太陽が隠れようとしてきらきら輝いている。意外に時間がかかってしまったな。わざわざ歩いたせいでもあるが、悪くは無かった。
そういや、宿代とか考えてなかった。どうしようか。
「アーネゴ!」
調子の良い声が聞こえてきた。声質的にはディアや俺と同じくらいの年齢だろうか。しかしながら、俺らとは違って落ち着きのないものを感じる。
その方を見ると、これまた変な奴がそこに居た。ミヤビと同じようににっこりと笑う仮面をつけている。身に着けている上着は赤色で、ミヤビのと同じ作りだったが、素材が少しだけ違った。そのフードを頭に被っている。そこからはみ出す金髪は、羨ましいくらいにサラサラだった。
「ただいま。ルベル」
「……ん? 誰? そいつら?」
「モトユキ。よろしく」
「……」
ディアはまた黙ってしまった。
事情聴取は後からでいいや。
☆
結局あのとき、俺は答えることが出来なかった。
転生者とは、世界が危機に瀕した際に召喚される人間のことを言うらしい。だが、召喚が成功できるのは稀であり、一つの時代に一人しか存在しないと言われている。
……というのが、
ミヤビの認識では、結構ポンポン転生しているらしい。
転生者には共通して「レベラー」という能力が与えられる。相手のステータスが見え、アイテムの鑑定ができる能力らしい。……俺にはない。そして、
俺は「言語が理解できる」っていう祝福かもしれないな。でも、それはミヤビも一緒だ。
よくわかんねぇ、というのが現状だ。
俺を連れてきた神は、人間は、どいつだ?
何故、俺には「レベラー」が与えられていない?
何故、シューテルにいた時ディアはそれを隠した?
そもそも、なんで彼女がそんなことを知っている?
俺はベッドで仰向けになりながら色々考えていたが、やがては面倒になって思考を放棄することにした。今ある情報だけでは、推理のしようがない。理解もできない。
ここはミヤビの家らしい。小さなところだが、小綺麗だ。風呂もある。意外と良い奴だな、あいつ。当たり前のように泊めてくれたし、夕食も賄ってくれた。俺はいつの間にかすっかり信用してしまったようだ。
ここダラムクスは平和なところだと分かる。町の雰囲気が良い。決して、全員が裕福であるわけではない。だが、ミヤビの家のように街はずれのところでも、家の造りがしっかりしている。要は貧民街が無い。この家の設備がしっかりしているのは、「ミヤビが金級冒険者だから」という訳ではなく、昼間に話してくれた「冒険者ギルド」というところが大きく関わっているっぽいな。
俺は先に風呂に入った。今、ミヤビとディアは風呂に入っている。
んで、俺の隣のベッドにはルベルという少女がいるわけだが……。
「……ねぇ、仮面外さないの?」
「んー? カッコいいからね」
「……」
どういう訳か、彼女は仮面を外そうとしない。仮面をつけ、赤フードを被ったまま本を読んで、二人を待っている。
「君とミヤビはどんな関係なの? 血縁には思えないけど」
「アネゴはアタシの師匠さ。アタシの面倒を見てくれている」
「ふーん」
「じゃこっちから質問。ディアちゃん何にも話さなかったけど、何かあったの?」
「さぁね。俺にもわからない」
「ディアちゃんとは恋人同士なの?」
「違う。お友達だ」
「えー、つまんない」
「君はどうなの? そういう人はいるの?」
「いなーい。でもアタシは、アネゴとケッコンするんだ!」
「……へぇ」
再び二人の間には沈黙が流れる。
恋人とか夫婦とか、そういうのに興味を持ち始める年ごろだろう。
しかし、あの歳になって身近な誰かと「結婚したい」とか言うものなのだろうか? ママとケッコンするとかパパとケッコンするとか、そういう感覚なんだろうけど、年齢が二桁を越えて言う奴が居ただろうか。
「君はミヤビと一緒に風呂入らないの?」
「んー、だって恥ずかしいもん」
「……そう」
腹いっぱいになって、風呂入って、身体が冷えてくる。
すると、どこからともなく眠気が沸いてくるものだ。
「その赤い上着は、どこで買ったの?」
「んー? アネゴが作ってくれたの。アタシがお願いしたんだけど。……ねね、君のその服って、礼服だよね? どこかのお偉いさんの召使い? だったらちゃんと着こなしたほうがいいんじゃない?」
「借りてるだけだ」
「そうなの?」
「うん」
寝てしまってもいいだろうか。
もう今日は疲れた。後々ミヤビと話そうと思っていたが、頭がうまく働く自信が無い。そう焦らなくても、時間はたくさんあるんだし……。
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