国家元首の時給が980円なんだが~ブラック国家のフリーター国王~
桜水城
第1話
青くなくても空は眩しかった。
否、瞳が弱っているだけだ。曇り空でも真っ直ぐに見られない。
光の刺激に敏感になっている。まあいつものことなんだが。
週6で入っている深夜のコンビニバイト。
最初はつなぎのつもりで、短期で終えるつもりで始めた仕事だったが、もう二年も続けている。
めんどくさい夏のアイスの入れ替えも、めんどくさい冬のおでんも、もう2シーズン体験している。
そろそろやめたいと思いつつ、惰性で今日も店に通う。
そして終わって店を出ると、明るくなった空に目をやられるのだ。
深夜を選んだのには理由がある。
一つには時給が高いこと。もう一つは客が少ないことだ。
接客は苦手だ。レジ打ちなんて楽な仕事なんかじゃない。
「○○円になります」の一言さえ言いたくないくらいだ。
深夜だと昼間に比べて格段に客は少ないから、そんな機会は格段に少なくなる。
とは言え、仕事量が少なくなるわけではなく、逆にオーナーが常勤しているために余計な仕事を割り振られていると思っている。
はぁ……ほんと早くバイトやめたい……。
やめてどうしたいなんて展望は特にないけど、とにかくやめたい。
バイトじゃなくて何か稼げる仕事、欲を言えば楽な仕事が良い。
そんな仕事に就けたら良いなあなんてとりとめのないことを日々考えていた。
「国王になってみませんか?」
そんな突拍子もない話が舞い込んできたのは、うだるような暑さとすぐスカスカになるアイスの冷蔵庫に辟易していた7月のことだった。
いやいやいや……国王って。国を率いるんだよ? とんでもない権力だよ?
しがないコンビニバイトの俺なんかにできることじゃないって!
最初はそう思ったのだが、よくよく調べてみているうちに、「俺にもできるかも?」と思わせてくる何かがあった。
俺の住んでいる国は今、無政府状態というヤツだそうだ。
君主である国王が、あろうことか自殺していなくなってしまったのだ。
……公式には「自殺」ということになっている。
嘘かホントか、一国民である俺には知る由もないが。
暗殺説、事故説、病死説……様々な憶測は飛び交うけれども、確かめるすべなどない。
そのうえ、信じられないことに国王がいなくなって、あとを追うように国の上層部も次々にいなくなった。
「いなくなった」と表現したのは、それぞれ様々な形でまさに「いなくなった」からだ。
国王のあとを追って自殺する者、職を降りて故郷に引っ込む者、国外へ逃亡する者……。
正直言ってこんなメンタルの奴らに国を仕切られていたのかと思うと物凄く怖い。
(中略)
1月の下旬のことだった。
クーデターを起こした俺は国家元首となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます