第15話 骨川はちょくちょく出てきます。

家に帰ったら、日和がテレビの前で、寝転がりながら、スマホをいじっていた。

 めずらしいな。疑問に思って、覗いてみると、ラインをしていた。

 相手は、零のようだった。


「零と何を話してるんだ?」


「あ、お兄ちゃん。おかえりなのです。零さんとは、女の子同士の話をしているので、秘密なのですっ」

 脇から覗いている、俺から画面が見えないように、日和は上半身を倒した。


 前までは、スマホの中を見ても、何も言わなかったのに。

 成長したのか·····思春期だからこんなものなんだろうけど、ちょっと悲しい。

 でも、零と仲良くラインをしてるのは、いい事だな。

 悲しみと、喜びが混ざって、不思議な気分だ。


「そっか」


「ふふふ。女の子同士の秘密の話。こういうのしたかったのですよ」


「俺はちょっと寂しいけどな」


「お兄ちゃんが、見てはいけないのは、零さんとのトーク画面だけなのです。普段通り、日和をギュッてしてくれていいのですよ?」

 画面から、目を離した日和が、俺の方を見て言った。


「いつも通りなあ·····って、いつも、ギュッなんてしてないだろ!」


「昨日もしたのですよ?」

 昨日·····あっ。確かにしてた。


「あれは、日和の方から、抱きついてきたんだろうが」


「ふふ。仮にそうだったとしても、男の人は、女の子から抱きつかれたら、自分から抱きついたって言うものなんですよ」

 そうなの? そういうの良くわからん。

 日和はにんまりとして、人差し指で、俺を指す。


「だから、お兄ちゃんは、日和をいつもギュッてしていることになるのですっ」


「·····なんかおかしいような?」


「おかしくなんてないのです。これが世の摂理ですっ」


「ま、いいか。そういうことで」

 俺は、リュックを床に置いて、課題をデーブルの上に取り出した。

 今日は数学の課題がアホほどあるんだよな。憂鬱!


「あ。お兄ちゃん。質問したいところがあるのですが」

 日和は、テーブルの脇にまとめて合った、本の山の中から、テキストを取り出した。


「数学か?」


「はい。三角比なのですけど」

 日和は、学校に行っていない分、家できちんと勉強はこなしている。

 三角比は、いくら進学校の七条高校と言えども、夏休み前からしか、始めない範囲だ。

 家で見ている限りでは、日和はすごくよく出来ている。

 学校でテストを受ければ、多分、学年1桁は固いと思う。


「あ~。ここは、俺も躓いたとこだな。入試では頻出だから、丁寧に抑えような」


「はい」


「まず、この解を実数化して·····」


 ****************************


「ときに姉ちゃん。最近どうなの? 篠塚さんとはさ」

 昼休み。俺は学校の屋上で、骨川と一緒に昼飯を食べている。


「どうって、何もないよ」


「ほおー。一緒に買い物に行って、一緒にトイレまで行く仲だとゆうのに?」

 充血した目で、骨川は俺を見る。


「だから、この前も説明しただろ? 篠塚とは、幼なじみで、別に、付き合ってるとか、そんなんじゃないって」


「嘘だっっ!!!」

 骨川の絶叫が俺の耳に流れ込み、頭を揺らす。

 俺は、卵焼きを口に入れた。


「骨川。俺って男の友達がお前しかいないだろ」


「おう。そうだな。それがどうした? 女はいるんだろ? 女は!」


「それでさ、俺が学校で他人と話す時って基本、お前と話すよな」


「そうだけど」


「お前、今一部の女子の間で、俺たちが、恋仲だって噂されつの知らないのか?」


「は? なんだよ、それ」

 俺が放った言葉が予想外だったのか、骨川は、狐につままれたような表情になった。


「BLって言うんだとよ。なんか、漫画にされてたぞ。俺たち」


「ま、マジかよ·····一緒に話してるだけの、仲がいい男子を見て、そんなことをするやつが·····」


「腐ってる方もクラスに一ダース近く居るみたいだな」


「一ダース近くってほとんど全員じゃないか! まさか·····篠塚さんも?」


「そうなら良いんだけどな·····多分違うぞ」

 もしそうなら、俺に付き纏ってきたりしないだろう。


「あ、姉ちゃんは、そんな気持ちで俺と話したりしてないよな?」

 上目遣いにこっちを見るな。気持ち悪い。


「百億パーセントお前は唆らないから、安心しろ」

 科学の力をもってしても、お前は恋愛対象にはならない。


「そうだよな! 一瞬焦ったぜ」

「ふいー」と安堵の息を吐きながら、骨川は、額の汗を拭った。


「そういや、あれだな。姉ちゃん。二月からなんだな。ヲ〇恋の実写映画が始まるのは」

 骨川が話を変えた。


「おう。そうだけど、今は、4月の末なんだ。時系列が、おかしくなるから、そういう発言は控えろ」


「·····? 何言ってんだ? 姉ちゃん」


『ガチャ』

 屋上の扉が開かれた。

 気象同好会の人間は、俺と、目の前にいる骨川だけなので、扉を開いた人間は、先生、もしくは·····


「やっぱりここにいましたか」

 零だった。

 手には、紙袋を持っている。


「あ、服か」


「はい」


「ん? 誰? この子は? 気象同好会入部希望? そうかな? そうだよね!」

 俺と、零の間に、骨川が入り込んだ。

 なに興奮してんだこいつ。


「ちょっ。姉ちゃん」

 骨川が俺の腕を握って、零から見えない、角まで、俺を引っ張った。


「どうしたんだよ? 骨川」


「どうしたもこうしたもあるか! めちゃくちゃ可愛い子じゃないか!」

 そう、小声で言った。

 は? なに言ってんだ。こいつ。


「あいつがか?」


「ああ。特に、あのバナナのようなアホ毛が最高にキュートだ!」

 は? 何言ってんだ。こいつ。


「なあ。知り合いなのか? 姉ちゃんの? 紹介してくれよ。そして、気象同好会に入って貰おうよ!」

 は? 何言ってんだ。こいつ?


 あ! そうか。こいつは、零の中身を知らないから、単純に見た目だけで判断して、こんなことを言ってるんだ。


「どうして、ぼくから逃げていくんですか」

 零が、俺たちの方まで、歩いてきた。


「ボクっ娘だよ。く~尊い!」

 骨川は、俺の後ろから飛び出す。


「入部希望かな? 名前はなんて言うの?」

 うわずった声で、骨川は零に聞く。

 声が完全に不審者だぞ。


「入部希望者? ぼくは昼寝同好会に入りたくて来たのではありません」

 零は、紙袋を俺に渡した。


「はい。お返ししますね。この服。洗濯はしておきました」


「お。ありがとう。お前が着ていた黒いパーカーは、汚れが完全には落ちなかったので、今、家で集中的に洗ってるんだ。もう少し待ってくれ」


「ん? 体操服でも貸していたのか?」

 骨川が、俺の手から紙袋を取り上げて、中身を見た。

 その中身。ごちうさのチノが着ていた、うさ耳のパーカーの再現品を見て、骨川は·····

「お、おう·····っふ」

 絶句した。


「じゃあ、ぼくはこれで失礼します」

 骨川に蔑むような一瞥をやり、零は下の階に降りていった。


「コスプレプレイですか。コスプレプレイですか。コスプレプレイですか。コスプレプレイですか。コスプレプレイですか。コスプレプレイですか。コスプレプレイですか。コスプレプレイですか。コスプレプレイですか。コスプレプレイですか。姉ちゃん。コスプレプレイですか。コスプレプレイですか?」

 骨川のスイッチが完全に入ってしまった。壊れかけのラジオのごとく、同一語句を連呼している。

  説明するのがめんどくさいので、後ほどLINEで、長文の説明を送っておくとするか。


「あ! モウチャイムガナッテルヨ。ツギノジュギョウノヨウイヲシナクチャ!」

 兵法三十六計逃げるに若かず。

 俺は、全速力で、扉まで走って、下階に逃げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺はこんな銀髪美少女と婚約した覚えはない。 黒鐘 蒼 @hayashitaito

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ