第114話 “決戦の地へ”…偽りのダークヒーロー編
※112話の続きになります。
*****
「聞こえるか、ブラン。ミトラがやっぱり生きていた。山の中の例の目的地で
それは山中で、兄がミトラに
崖の途中に生えている木にロープを絡ませたおかげで、
木の影に入って
画面にクモの巣状のヒビが数個入っていたが、何とか使用は出来るようだ。
それでブランに電話をかけての、今のセリフだった。
『マロニー!?』
悲痛なブランの叫びが、スマホの向こうから聞こえた。
兄は、マロニーは構わず続ける。
「これから何とか例の場所へ引っ張っていく。幸か不幸か、ケイジ・バイパスを通ればなんとか
その顔は苦痛に歪んでいる。
だが、話す声には一切そんな苦痛の様子は見せない。
兄はスマホ越しにブランに
「これからビッグママに頼んで、急いで例の場所へ応援を
スマホの向こうのブランは『分かった』と短く答える。
しかし、すぐに続けた。
『マロニー。いま話してるんが本物なんか偽物なんかわからんけど、絶対死んだらアカンで!』
「ああ、
『分かった。この後すぐにやるから!』
しかしそのブランの声は、すぐに涙が混じる。
ブランは必死な調子で兄に訴えた。
『なあ、マロニーが死んだら、ウチ……ウチ……! ウチがこの世界で頼れる人はマロニーだけやねん! だから絶対に帰ってきてなマロニー!! お願いやから!!』
「必ず帰るよ、約束だ。ああそれと、このスマホ壊れかけてるんだ。多分これが最後の連絡になると思う。だから頼むぞブラン」
ブランが最後に、
涙声なのに必死で笑い声にしようとしているのが感じられる。
『“必ず帰る”は死亡フラグやけどな。でもそんなんブチ破ってくれると信じてんで』
兄は「ああ!」と答えて通話を切ると、スマホをしまって雨の中を歩きだした。
“ブランの言った通りだぜ。フラグとか関係ねえ。ミトラをぶち殺して絶対に生きて帰ろう、相棒”
「当たり前だ」
*****
豪雨の中、
そのすぐ下には、倉庫らしき建物の屋根がある。
そこはどこかの物流会社の倉庫だったものの
その会社は廃業したのか別の地に移ったのか、その場所には使われなくなった建物だけが残っていた。
屋根にはまだ、太陽光発電施設が一部残っている。
雨に打たれながら足を踏みしめ、紅乙女を右手に呼び出し上を見た。
すぐに高速道路のフェンスを乗り越えて飛び降りてくる黒い影。
ミトラが後を追ってやって来たのだ。
屋根にはリベットが打たれているので、さっきのバスの上よりかは
もちろんその移動は、
ミトラは空中で身体を
オーラの防御で突き刺さりこそしなかったが、そのまま
すぐさま起き上がると
また目の前に
だがそれは連続で来る攻撃。
片手で繰り出されたとは思えぬ威力の突きがそのまま三連続。
その攻撃はミトラのガードの速度を上回り、オーラが減少したミトラの左右上腕・左の脇腹が切り裂かれた。
そして
ミトラはそれにカウンターを合わせるべく、右の
しかし
ミトラのパンチに合わせて
ミトラの腕を
今までもミトラに何度か食らわせた、例の一本背負いで。
ボゴッ!!
叩きつけた部分の屋根が抜け落ち、ミトラは建物の中へ落ちていく。
投げ落としてすぐさま紅乙女で叩き斬るつもりだった
そしてミトラが落ちていった穴へ
*****
倉庫の屋根を支える垂木に当たる鉄骨にロープを絡めて、
ぶら下がった
着地した
ミトラは起き上がると、梁の上に立ち上がる。
ミトラは獰猛な笑みを浮かべ、対する
ミトラはその挑発に簡単に乗った。乗らない理由は無かった。
さっきのバスの上での戦いで、この男が、兄が決定打となる攻撃法を持ち合わせていないのは明白だ。
ならばこの男が何の小細工を
ミトラは
足元になにかを一瞬感じたような気がしたが、それ以上考える余裕は作らなかった。
しかし、そのミトラの突進に合わせて
──さっきみたいに投げ飛ばす気か! 同じ手を何度も食らうかよ!!
咄嗟に急停止するミトラ。だが
その兄の様子に、何かおかしなものを感じた瞬間。
ドゴッ!
ミトラの横から突然H字形鋼の鉄骨が飛んできて、ミトラの脇腹にぶち当たった。
何が起こったのか分からず、梁の上から弾き飛ばされるミトラ。
飛ばされた先には、少し低い位置に横たわる別の梁。
辛うじてその梁に着地する。
だがその上から大量の鉄の棒が降ってくる。数はおそらく十本ほどだろうか?
ご
さすがにこれ以上受けるのは、オーラの残量が保たないと判断するミトラ。
頭に当たらない事を最優先にしながら必死に鉄棒を手甲で弾く。
それを
さっきのもそうだったが、天井からワイヤーで吊り下げられたモノが飛んできている。
一瞬だけ目を見開くが、足の
その両手がクロスした手甲の部分に、鉄骨が激しくぶつかる。
だがこの鉄骨の上には、
左腕を刀の峰にあてがい少しでも威力を増そうとしている。
── ヤ・バ・イ !!
今オーラの総量がかなり減っている状況で頭部に攻撃を受けたら。
いやそもそもオーラを全てを使い切っても防げるのか!?
身動きが出来ないこの状況でどうしたら。
そもそもこの倉庫は、この
コイツは逃げたのではなく、俺をここへ誘いこんだという事なのか!?
だがどれも糞の役にも立たない。
ミトラは無意識に首を横に傾けて、頭部への攻撃を
そして最後にミトラの脳裏に閃く“主人公属性”。
その時──。
上から降ってきた鉄棒は、二本がミトラの身体に突き刺さっていた。
具体的には左上腕と右大腿に。
特に足に刺さった鉄棒の上部には、ミトラが手甲で弾き
まさにその亀裂部分に吸い寄せられるように、H字形鋼がぶつかる。
突き刺さっていた鉄棒の上部に入っていた切断寸前の亀裂は、激突の衝撃でついにちぎれ飛んだ。
そのちぎれ飛んだ鉄棒の破片。それは
破片は、まるで狙ったかのように
その衝撃で
ズレた斬撃は、ミトラの左上腕に刺さった鉄棒に当たる。
火花を散らしながら刀の斬撃は鉄棒を
結果的に
梁の上に着地した
右目がおかしかった。
さっきの破片で、切れた顔面からの血が目に流れ込んでいるのか。
そう思い、紅乙女を握ったままの右の手首で目を
右目の辺りに妙な硬いものが引っ掛かる。
その際に右目がズキリと痛む。
そこには、飛んできた鉄棒の破片が右目に突き刺さっていた。
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