第112話 “一進一退”…偽りのダークヒーロー編
遠ざかるトンネルの入り口を注視しながら、兄は、マロニーは己の装備を確認する。
軽トラックの助手席に、荷造り用のロープが積まれていたのは幸運だった。
それまで左腕に巻き付けていたモノより太目で取り回しにくいが、
なんとか新たなロープを左腕に巻き付ける。
トンネルの奥に入るにつれ、
“来るかな?”
そう疑問を兄に投げかける
兄の返答は早かった。
──当然来るだろうな。アイツは頭に血が昇ったら、相手にやり返さないと気が済まないから。
“ガキだな”
──あのチートでガキのままいられて、大人にならずに済んだって事だ。
兄が、マロニーが飛び乗ったトラックは、二車線ある高速道路の車道の左を走る。
トラックのコンテナの上で腰を落とし、不測の事態に出来るだけ即応できるように身構える。
右手に紅乙女を呼び出し、切り
それで揺れるコンテナの上にも関わらず、
──紅乙女、あの黒剣と打ち合っていて大丈夫か?
“大丈夫です、ご主人様。どうも私とあの剣の性質は正反対なようですから、そのせいかもしれません”
このトンネルは随分と長いようだ。
いくら夜目の効くエルフだとて見落としがありうる。そう考えて警戒を
トンネルの入り口に向かって、進行方向とは逆に身体を向けて身構える。
紅乙女に神気を込めながら神経を尖らせる。
そして──。
「シッ!!」
呼気と共に
そこには、コンテナの右側面に取り付いてよじ登ってきていたミトラの姿。
その手足には、形をプロテクターに変えて
フリーにした右手の手甲で気刃を受けるミトラ。
それを予想していたかのように、続けて刺突を仕掛ける
しかしミトラは壁面に
空中で宙返りをしながらコンテナの天板に着地。
ジャンプ中に戻したのか、その右手には
金属音が響いてミトラの魔剣と紅乙女が噛み合う。
コンテナのギリギリ端まで下がると、更に
その時、またも以前と同じ
そこには片膝をつき、右手にリボルバー拳銃を握る
左前腕で右手首を下から支えて固定。
空中のミトラを狙い撃ちにした。
ガン! ガン! ガン!
トンネル内部だからか、射撃の
さすがのミトラも空中では躱すこと
コンテナの右後ろから落下するミトラ。
だが、前方右車線から高速バスがやってきて、トラックと並走する。
バスが減速したのかトラックが速度を上げたのか。
落下したと思ったミトラが、そのバスの壁面にさっきと同じように貼りついてた。
手足には再びプロテクター化して、鉤爪を生やした魔剣。
それを確認した
その走りは、激しく揺れるコンテナの上なのを全く感じさせない。
高速バスに向かってジャンプ。
バスの天板に着地した。ほぼ同時にミトラも天板によじ登りきる。
今度はミトラの行動が
足の鉤爪を天板に食い込ませて
一本背負いの投げで天板にミトラを叩きつける。
天板がベコリとへこむ。
それにバスの運転手が驚いたのか、ブレるバスの車線。
まだ表で降られた雨の
その上でバランスを保つのは難しい。
急に車体がブレたのなら
ミトラも身体を起こす。
だが彼もまた
滑り止めの為に天板に食い込ませた鉤爪が、予想以上に食い込み過ぎて、攻撃がワンテンポ遅れるのだ。
戦闘に意識が集中してしまい、鉤爪をスパイク状に変えた方が良い、という事に気がつく余裕が無い。
片手だけで振るう以上、威力のこもった攻撃が出来る形は限られてくる。
だがやはり
ミトラの手甲に簡単に
突きを弾いたミトラは、右足で蹴りを
足の鉤爪を食い込ませているので、踏ん張りは充分。
だが食い込ませた足を外す際に、やはり攻撃の出だしが一瞬遅れる。
蹴り出した足を
足でミトラの背中を押さえる。
右車線を走っているので、バスのすぐ右にトンネルの壁がある。
──このまま壁にミトラの顔をぶつけて
そう
──チ、“主人公属性”か!!
ミトラは闇のオーラの力を借りて筋力を強化。無理矢理
具体的には、
空中で体勢を変えて着地する
腰を落とし、切断された左手首の切り口を床に置く。
その姿勢のまま天板の雨で後ろに少し滑るが、すぐに止まる。
ミトラは両手の手甲からの鉤爪を限界まで伸ばした。
そしてそのまま、だらりと
両脚は肩幅に広げて、右足に体重を乗せる。
だが、相対する
一方、
右手を後ろに回し、紅乙女の刀身を横に伸ばして持ちながら。
その目の闘志はいささかも
二人をトンネル内の常夜灯の薄暗いオレンジの光が照りつける。
照明が弱くなる部分が、リズミカルに
それに反応してミトラが動く。
だがそれが
ミトラが上げようとした足を
そのまま押し倒そうとしたが、ミトラは
持ち上げられた足を、力任せに再び振り下ろす。
左の肩口から体当たりを仕掛ける。そのまま続けて紅乙女を振り下ろす。
ミトラは身体を
そのまま
ミトラは両手の手甲で弾きながら、
それを躱しながら攻撃を続ける
幾度となく攻撃を打ち合わせ、また攻撃を躱す二人。
やがてバスはトンネルを抜けた。
*****
トンネルを抜けると街明かりだった。
暗闇の中、星明かりのように地上に広がる光点の群れ。
天候が穏やかなら、そしてこんな戦闘の最中でなかったなら、なかなかの美しい
しかし台風の
外気の中へ飛び出したバスを、
それはバスの上の、二人のエルフにも
豪雨で
ミトラもそれを見て反射的に膝を出す。
倒れかけた
バスの天板の上をゴロゴロと転がる
しばらく身動きしなかったが、やがてゆっくりと身体を起こす。
やや体幹が振らついているようにも見える。
その額から血が流れていた。膝は、鼻ではなく額に当たったようだ。
低い姿勢で左手首を天板に置き、三点で姿勢を安定させる。
右手を後ろに回して紅乙女の切っ先を横に伸ばして。
その姿勢が更に低くなった。
ミトラも口角を歪めて持ち上げ、ニヤリと笑う。腰を落として拳法の構えをとる。
そして
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