第105話 “転機”…偽りのダークヒーロー編
コリーヴレッカンはミトラを
天空の雲の一部が
ミトラは慌てて後ろに飛び
兄とコリーヴレッカンは知る
だが『鎧』化が解け、生身が
「お
コリーヴレッカンは
ロングモーンのように直接雷を繰り出せる事も出来るが、天候をある程度操れるのがコリーヴレッカンの持ち味の一つだった。
嵐を消し去る事までは出来ないが。
風はますます強く、雨は密度を少しずつ上げて振ってきている。
ミトラは魔剣を再びプロテクターに変えると、手足に装着。落雷が消えると同時に兄へ突撃を開始する。
兄はミトラに気刃を撃つ。だがミトラは両手を顔の前でクロスさせると、そのまま突っ込む。
パキン、と音がして気刃は
闇のオーラはかなり減ったが、思った通り兄も片手では攻撃力がガタ落ちだ。
落雷がもう一度。だが今度のそれは、ミトラが通過した後に落ちた。
兄に肉迫するミトラ。突撃の勢いそのままに右ストレートを叩き込む。
兄は刀でそれを受ける。左腕の子供を
だが、両手で握った刀でようやく
兄は受けた刀が体に押し付けられ、刀ごと殴り飛ばされた。
今度はわざと受けて自ら飛んだのではなく、正真正銘ミトラの攻撃をマトモに喰らったのだ。
辛うじて倒れる事なく
しかし子供を片手に抱えているので機敏に動く事が出来ない。小回りの効く動きも出来ない。
攻撃も片手で振るったとは思えぬ威力を見せるが、やはり両手を使ってしっかりと振るう刀の威力には遠く及ばない。
今度こそ本当の防戦一方となり、押し込まれていく兄。
何度目かのミトラの
さすがにバックステップで
だが今度の落雷は連続で落ちてくる。
その
そうしておいてからコリーヴレッカンは、
兄とミトラの間に岩でできた壁が現れる。
ミトラがその壁を魔剣で砕こうとした瞬間、更に岩が大量に降ってきた。
周囲ぐるりを岩が取り囲み、更に上に岩が降り積もる。
ミトラを閉じ込めてドーム状になった岩。
兄は、
雨が激しく降ってきた。
ふと、黒い思考が脳裏に浮かぶ。
──この子供を見捨ててしまえば、少なくとも身軽に動けるんじゃないのか?
兄は子供を見下ろす。
子供も兄の様子の変化に気付いて、不安げに兄を見上げる。
だが、そんな子供の表情にも構わず兄は、子供を抱える左腕の力を緩め……。
“その手を離すな!!”
──!?
“このクジラと以前に話した内容を思い出した! オメエは今、その手を絶対に離しちゃなんねえ!!”
「俺は」
“今だ。今この時がオメエの越えちゃなんねえ一線だ! アマローネ達がくれた人生を無駄にするかしないかのな!!”
「しかしミトラに勝つには、そんな甘い事なんて……」
“オメエがこのガキと最初に出会った時にガキを見捨てていたら、こんな事は言わなかった! だけど見捨てなかった!
それがオメエの本性だからだ!!”
「……」
子供を抱く力が逆に強くなった。
子供は兄の左腕に必死に
“オメエの心を、オメエ自身を殺しきるな。オメエにはそれが出来る。オメエはそれを
自分の心を殺さずに済むほうが、今よりよほど良い人生を過ごせるぜ?”
雨が子供と兄の身体を叩く。
兄は顔を僅かに上に向ける。
子供の目からは、兄の表情は見えない。
コリーヴレッカンはミトラに攻撃をかけながら、兄に何も言葉をかけない。
やがて兄は静かに呟いた。
「……ちぇっ。俺がアンタと契約した時のセリフの
“好きに取りな”
そうして改めてミトラを睨み付ける兄。
そこへコリーヴレッカンのほうから初めて声が兄へかけられた。
「逃げなされ」
「何っ!?」
コリーヴレッカンの表情も分からない。
兄が空中を漂うコリーヴレッカンを見上げても、何も読み取れない。
「主殿もその
「だがここまで奴を、ミトラを追い込んだんだぞ!? 見ろ! アイツの訳の分からないオーラみたいなのが、あんなに薄れているのに!!」
「先ほどの戦いでは、とても追い込んでいるようには見えませぬでしたな。むしろ追い込まれていたように見えまする」
兄はミトラのいる方へ視線を向ける。
ミトラは岩屋から脱出するために、内側からガンガンと攻撃を続けていた。
兄は歯を食いしばる。
奥歯がギシリと音を立てた。
コリーヴレッカンが冷たく続ける。
「こう言わねば分かりませぬか? 足手まといなのですよ、今の主殿は!」
「ぐ……」
「もうじき主殿が手配していた回収用の飛行機も到着する事でしょうな。主殿がそれに乗り込む時間ぐらいは、私は雲を割り嵐を
“行こう相棒。気持ちを切り替えろ”
兄はそれでもしばらく黙り込み、食いしばった歯をキリキリと鳴らす。
やがて絞り出すように
「……分かった」
決めたからには、兄の行動は迅速だった。
一旦、子供を下ろすとコートを脱ぐ。今までの攻撃でスソがズタズタだ。
コートの
右の袖を胴体部から紅乙女で切り離す。
兄の意図に気付いた子供が慌てて踏んでいた端を掴み、コートを広げて左の袖を切り易くした。
コリーヴレッカンが兄へ
「主殿、確か機関室に爆弾を仕掛けておいででござりまするな!?」
「そうだな、もう起爆しておく!」
その言葉とともにスマホアプリを呼び出し、遠隔の起爆スイッチを入れる。
船が大きく揺れた。
船尾のほうから黒煙があがり始める。
もう少ししたら、船底に空いた穴からの浸水で影響が出始めるだろう。
左手の使えない兄の代わりに、分割したコートを長いロープとして結び直していた子供も、不安げに船尾を見る。
だがすぐに手元に目を落とし、作業の続きを行う。
*****
ミトラが閉じ込められている岩屋が、内部から弾け飛ぶように爆発した。
破片がパラパラと雨と一緒に降り注ぐ。
そしてミトラも船尾を見た。
立ち上がる黒煙。僅かにかしぐ船体。
そこへミトラに魔剣の鋭い思考。
“跳ねろ。横だ”
後ろを向いたミトラへ、すかさずコリーヴレッカンが雷を落とす。だが、魔剣の指示で真横へ跳ねて躱して、事無きを得た。
避けてすぐに兄を見る。子供と何か作業をしている。
よく分からないが、この船からの脱出を画策している事だけは理解した。
──逃すかよ。その脱出手段は俺のものだ!
兄へ再び突撃しようとしたミトラを牽制するかのように、コリーヴレッカンが口から何かを大量に放つ。
──ブレス? 何だこれ!?
甲板に食い込み突き立つソレは、大量の割れた貝殻の破片。
普通の人間が食らえば……いや、今の闇のオーラが尽きかかっているミトラも食らえば、身体がズタズタになるだろう。
──ち、面倒臭え。どうやって近寄る!?
兄にとってもミトラにとっても、時間との戦いが始まった。
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